二十巻目 フリーズをしやすい人間
女は冷静さを取り戻すことなくただ、呆然と立ち尽くしていた。
その間も男は笑い続けていた。
――だいたいこれが五分ぐらい続いた。
五分後、ようやく男が笑い終わった。
「・・・いや、私としたことが久しぶりに大きく笑ってしまいましたよ」
男は笑うことをやめたが、にやにやとしていた。
「・・・」
女はまだ呆然としていた。
「いい加減、何かアクションを起こしてくれませんかね? 私も少し位アクションを起こしてくれないと、次の行動への指示をしにくいですよ・・・」
男はちょっとだけ、「はぁ・・・」とため息を流し、退屈そうな顔をした。
すると女がようやく重い口を開けた。
「・・・本当に私は・・・・・・女なのか?」
おどおどしながら、体を震わせながら男に聞く。
「えぇ、どこからどう見ても美しい女性ですよ」
男は冷静に、そして微笑をつけ返答をする。
「なんだと・・・・・・よかった・・・・・・」
女は、さっきとはまた違った表情で固まってしまった。
「あなたは、フリーズをしやすい人間なのでしょうかね?」
「そういえば、さっきから何を言っている。南蛮人にしては、日本語が達者だがいったいどこで習ったというんだ? さらに言うと秋葉原とはどこだ? というかここはどこだ? さっきまでいたあいつらをどこにやった? お前は味方なのか? 敵なのか?」
女は突然、顔を真っ赤にしながらしゃべる始めてしまった。
「おや、いきなりおしゃべりになりましたね」
「何の話だ?」
「まぁ、別にいいんですよそんなことは」
男はいちど大きく深呼吸をして、咳を「コホン」とした。
「あなたが今、非常に混乱していることは私でも分かります」
「だから何を言っているんだ?」
「だって、あなたは今の今まで藪にいたんですよね?」
「そうだけれども・・・」
「それが今ではビルがたくさん立っている、この東京秋葉原のど真ん中ですよ?」
「び・・・る? とう・・・きょう?」
女は動揺を隠せずにいる。「えっ・・・えっ?」と、声をもらし、目をきょろきょろとさせている。
「まぁ、落ち着いてください。状況を説明してあげますから」と言い、女の肩をポンと叩き安心させようとした。しかし女は、ポンと叩かれたことに少し腹を立ててしまった。
「状況など等に理解している! 私をあまりなめるな!」
声をあらげ、男に言う。そしてまた腰元に手を伸ばすが、何もないのでただ手を振った。
「えぇ・・・そんなに声をあらげる必要ないじゃないですか」
男は涙声になり声を震わせている。
「・・・す、すまん」
女はちょっと悪びれて、顔を染めた。




