百九十六巻目 赤らめながら
「事の発端は、今から五百年後になります」
「突然何だ?」
「今日、なぜあなたがここに来たか理由をお分かりですか?」
「分かっていたら、こんなに余裕にしていると思うか? 南蛮人よ」
「普通の人であれば、何をされるかわからなければ緊張してびくびくすると思いますけれどもね」
「俺は、普通じゃないからな! もちろん、いい意味でな!」
ガハハと偽美希は笑うが、ジョンの表情は緩むことはなかった。いつものにやけ顔を封印し、ジョンはしっかりとした真面目な顔つきをして、偽美希の方を向いている。
その姿を見て、笑っていた偽美希も笑うのをやめて「……それで、突然おっぱじめた話は何なんだ?」と冷静な顔つきでジョンに聞くことにした。
「……ありがとうございます。この話は、なぜあなたがこの時代に連れてこられてしまったか、その理由を説明するものです」
「理由……か」
「はい」
偽美希はコーヒーを飲み、「南蛮人、話をする前にもう一杯もらえないか? このこぅひぃを」と、ジョンに伝えた。
「それもそうですね。やはり話をするには飲み物が必須です。今、すぐに淹れてきますからね」
そう言って、ジョンはコーヒーを淹れに行った。
―――
「……」
「……!」
コーヒーを無言で飲む二人の周りには、蝶や野生のリスが居た。風は彼らを包み、日差しは彼らを照らした。しかし、彼らの中にはある一つの思いしか今はなかった。それらの美しい自然のハーモニーを超えるほどの思いとは
「いやぁ、ジェルマンに頼んで買ってきてもらったこれは、中々いいものですねぇ」
「確かにそうだな、南蛮人。これは、このこぅひぃはすごいな!」
彼らは今、コーヒーに夢中になってしまっていたのだ。芳醇の香りと、深みのある味と絶妙な苦み。彼らはまさに味の芸術を味わっていたのだ。
「……」
「……」
時間が経つごとに、彼らはなぜコーヒーを淹れてきたのかという本質的なことを忘れてしまって、味の芸術の深さにはまっていってしまっていた。
「は!」
「?」
その深みにはまっていく前に、ジョンは本来の目的を思い出し、大きな声で叫んだ。この叫びには、深みにはまっていくまいという強い決心と、自分は何をやっているんだという疑問を投げかけた二つの気持ちを合わせたものだった。
「偽美希! 私たちはなぜコーヒーを飲んでいるんだと思いますか?」
ジョンは、偽美希に問うことにした。
「そりゃあ、お前が話をするからってんで俺がお前にこぅひぃを持ってくるように頼んだんだろ?」
「……」
どうやら、偽美希は分かっていたらしい。分かっていたうえで味の深みにはまっていったらしい。
「……なら、話を始めますよ」 ジョンは少し頬を赤らめながら話を始めた。




