百九十三巻目 ハハハッ!
ミスター安藤はバックの中に手をつっこみ、「これが、昨日の君の試験の回答だ」と、昨日俺が書いた回答を採点した用紙を取りだしてきた。
そして、お茶をずるずると飲んだ後、ミスター安藤は「ハハハっ!」と高笑いをした。その高笑いはジョンが笑うときのウザさというものは無く、むしろそこにあったのは爽やかな、気持ちのいいものだった。
「はっきり言って、最高に最低な点数だよ! 君は良くやってくれた!」
「それは褒めているんですか?」
「いやぁ? 全く褒めてないよ! むしろ貶しているぐらいさ」
なぜだろう。貶されているはずなのに、こんな風に清々しいのは。生まれてこのかた始めただ。なぜ、こんな気持ちになるんだろう? どうして、俺はこんな気分になれるんだろう? 本当にわけが分からない。だけれども、その訳が分からないという気持ちはなんというか、変な気持ちがのこらない、清々しい気持ちしか残らないものだ。これは、本当にすごい。
「ただ、一つだけ勘違いしないでほしいことがあるんだ」
「勘違い?」
「そう、勘違いしないでほしいことだ」
ミスター安藤はペンをとりだして、解答用紙のある部分を指した。
「例えば、この部分を見てくれ」
「どれどれ」
ミスター安藤がさしている部分は、国語の現代文を読み取る部分で筆者の気持ちを表している部分を探し出せという、なんとも不可解な問題を俺が回答した部分だ。
「君は、どうやらこの回答の意味の本質を理解出来ていなかったようだねぇ」
「理解も何も、作者の気持ちを書けと言われたから『なにも考えていない』と正直に思ったことを書いたわけだ」
俺は正直に答えた。なにが回答の意味の本質を理解で着ていなかったかどうか、そんなのはどうでもよかった。正直、この問題をしっかりと理解しようとは全く思わなかった。だから、問題に書いてあったことをそのまま読み取りそのまま書いた訳だ。当たってるとも思っていなかったから、もちろん×が付いていた。
「私はね、君が何も書かない、もしくは訳の分からないことを書くと思っていたんだ」
「そうですか」
「それが、作者の心情をもろに書いてしまうとは……ハハッ! これは非常に愉快だ。確かに君はこの問題の回答の意味の本質を理解出来ていなかったが、問題の日本語の意味はしっかり出来ていた。ならば、問題の解き方を教えればそれだけでこの問題は解けてしまうことになる」
「……」
なぜだろう。すこし、褒められている気がする。
「問題文とて、文章だ。文章をしっかりと読み取れるということは、すなわち長文も慣れれば読めるはずだ。それだけは、本当に安心したよ」
「そうですか……」
「ただ、まだ君には足りない部分が多すぎる。時間ももったいないから、早速授業をする。ノートをとりだしたまえ」
「……わかりました」
まぁ、とりあえず授業が始まるらしい。




