百九十二巻目 拒否権はない
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「よう」
「どうも、ミスター安藤」
「今朝の調子はどうだね?」
「まぁ、ぼちぼちって言った感じですかね」
「それはよかった」
朝起きて、偽美希とジョンは出かけてそれと入れ替わりにミスター安藤がやってきた。今朝のミスター安藤の雰囲気は、昨日とは違い少し明るい感じだった。
「昨日の夜に思いがけず利益を得たんだ。そりゃあ、うれしくもなるだろ」
「なるほど」
どうやら、ミスター安藤は昨日の夜に考えもしなかったことが起こりそこで利益を手に入れたようだ。だからこそ、すこし雰囲気が明るいんだろうな。
ミスター安藤は「勝手にお茶を淹れさせてもらうぞ」と言って、机の上に置いてあった急須に茶葉を入れて、やかんでお湯を沸かしてお湯を急須に入れお茶を作り、それを湯呑に入れ飲んだ。
「今日は一段とお茶の味がいい」
ただのスーパーで買ってきた普通のお茶。それも、昨日と同じお茶なのに、ミスター安藤はそんなことを言った。いつもと変わらない味のはずなのに、そんな風に言われると後で少し飲んでみたい気になってくる。そして飲んだ後にこう思うんだろうな。「なんだ、いつもと変わらないじゃないか」と。
「さて、さっそく授業を始めるとしよう」
「そうですね」
「君は、意外と軽いよな」
「体重は平均ぐらいはあると思いますけれども」
「……言葉が通じているのに、意味が通じていない。まぁ、仕方がないことか」
「?」
「私が言いたかったことは、君の気持ちというものが軽いということだ」
気持ちが軽いというのは、また独特な表現の仕方だ。そもそも、気持ちというものに重量があるのかというと、それに関しては俺にも良く分からないけれども、多分無いと思う。ないということは即ちゼロということになる。すると、軽い重いなんていうものなんていうものは無くて、そこにあるのは気持ちという概念だけになる。その概念というものにはもしかしたらその気持ち自体の深さがあるのかもしれないが、軽い重いなどといえるものなんていうものはないのだ。いったい、ミスター安藤は何を言っているんだろうか?
「今日やっていくスケジュールを発表する」
「はい」
そして、ミスター安藤は俺に次のようなことを今日のスケジュールとして発表してきた。
「今日のスケジュールははっきり言ってぬるま湯のようなスケジュールだ。まず、最初に昨日やった試験の説明から始める。君が書いた回答には多々間違いがあった。もちろん、間違えるということは過ちではない。しかし、そこから学ばなければ成長もできない。だからまず、最初はそこからはじめさせてもらう」
「はい」
「そして、それが終わったらまず社会科系統を勉強したいと思う。足りるところは高校生の分野から、ダメなところは小学生の分野からその時その時の状況を即時で判断して、やりたいと思う。それでいいか?」
「はい」
俺には拒否権はない。そもそも、拒否する必要もないけれどもね。ただ、これがまだぬるま湯と言うことだから、これから本当にどうなっていくんだろう。




