百九十一巻目 ゆったりと
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「と、言うことで私に日本語を教えることになったのはミスター鈴木では無くて、その女の子の役目になったわけです」
「その女の子も災難だったな」
「災難とは何事ですか! 人にものを教えるということは、自分にとって利益しかないんですよ?」
「お前がそう思うなら思っておけ」
「では、そう思っています」
「そうか」
ジョンはなぜかニコニコだった。
ただ、ここで俺に一つの感情が芽生えた。それは、「ジョンの思い出話、クソどうでもいい」という、とてもシンプルなものだった。
だから一瞬ジョンに「もう、思い出話はいいから寝ることにしよう。もし、話がまだし足りないんだったら壁に向かって話し続けていろ」と言いたいところだったけれども、そうすると俺は自分中心の考えで動いてることを直接的にジョンに知られてしまうことになる。それだけは避けなければいけないんだが……どうしても、一つだけ心に引っかかるものがあるんだ。
「さて、ノブ。話を進めても良いですかな?」
そうだ。ジョンは確か心の中を読めたはずだ。はずなんかじゃなくて、本当にこいつはそういう能力があるんだ。未来人とか、そういうのは信じられはしないけれども、心を読む、覗くという能力に関してはすでにやられたことがあるから、認めるしか他ない。ジョンの心を読むシステムは分からないけれども、俺がどうでもいいことやちょっとだけ不利になるようなことを考えているときに、ジョンはよく「あっ! ノブ、そんなことを考えていたんですか」とにやにやしながら言ってくる。その顔はウザいけれども、それほどジョンが人の心を除く能力が本当だということを示しているサインはない。
だからこそ、俺は思うのだ。そして、心に引っかかってしまうのだ。
たとえ、ジョンがウザくとも紳士的な部分においては他に出ない才を持っている。だからこそ、さっき言った状況以外でも心を読んで気を効かせてくれることが多々あるのだ。例えるならば美希(本物)がものすごく眠い時に、凜が酒を飲みに行こうと美希を誘っていた時にジョンは、「美希は体調がすぐれないので、私を連れていってください。いい酒場を紹介しますから」と言ったことがある。もしかしたら本当は、ただ単に酒を飲みたかっただけなのかもしれないけれども、それでも美希を除外したのはジョンの功績といえる。
だからこそ、今の俺の心情を読めるのであれば絶対に紳士的な行動をするはずなのに……いったい、どういうことなんだろう。
「いや、ジョン。もう今日はいいよ。また明日にしてくれ」
自己中心的とも思われたくないけれども、ジョンに気を使ってもらうのも今は無理だと分かった。だから、俺は自分に非があることを認める形でそういう風に言うことにした。
「……そうですか。それは残念です……」
ジョンは本当に残念そうな顔をして、小さげな声で俺に言ってきた。
何か、悪いことをしてしまったときのような罪悪感が俺を包む。ただ、俺は眠かったし疲れていた。やはり、知らない人間と一緒の時間を過ごすのは辛いものがあるな。
今日は、ジョンも俺てくれたことだしゆっくりと眠ることにしよう。獣のような声が聞こえるけれども、それをBGMにして、ゆったりと。
ようやくひと段落ができました




