百八十九巻目 本当にすごいこと
だから、はじめてミスター鈴木にあった時は津軽弁をしゃべってしまって、ミスター鈴木をかなり混乱させましたよ。
ただ、私としてはそのとき津軽弁を日本語の標準語だと思っていまして、ミスター鈴木の方がかなりなまっているしゃべり方をしている人だと思っていたんですよ。ただ、正しい日本語を習得は出来ていませんでしたし、例え、なまっていたとしても師は師です。私は、津軽弁でミスター鈴木にしっかりとした日本語を教えてくれるように頼みました。
「ミスター鈴木。わは、日本語ば上手こさ喋れらしうさのりて。だはんで、わんつか力ば貸してけれ」
「え?」
「お願いじゃ」
「お願いじゃと言われても……わけが分からんよ、君の言っている言葉は」
もちろん、その時私は標準語が完全に理解できるわけではありませんでした。ただ、ミスター鈴木の口調的に、多分なにか否定されていることだけは分かったんですよね。
その時、私とミスター鈴木以外に仲介役として共通の知り合いがいたわけで、その人がミスター鈴木の言葉を聞いた後私に津軽弁で「英語でしゃべってあげてくれ。津軽弁は通じない」と言ってきてくれた。ここで私はようやく、ミスター鈴木が津軽弁を理解出来ていなかったことを理解したわけです。
そのあとは、胸に星条旗を掲げている私はミスター鈴木に本場仕込みの流ちょうな英語で丁寧に、優しく、敬意を払うように日本語を教えてくれるようにお願いしましたよ。
しかし、ミスター鈴木の返事は私が思っていたのとは違った返事でした。
「えっ? 嫌だよ。時間には余裕がないから、人を教えるのは講義のだけと決めているんだ」
と、これまた流ちょうな英語で返してきたのでした。
これに私は驚き、津軽弁で「へば、わはどへばいいんだが?」と聞いてしまった。
「……だから、君は何を言っているんだ」
「……」 私は無言になってしまいました。
その、無言の私を見かねたのか、ミスター鈴木は英語で私にこう言ってきてくれたのです。
「……まぁ、俺が教える時間がないだけだから、俺の教え子で使える奴を紹介してやるよ」
※※※※
「そうです、この言葉こそ私とミスター安藤の出会いのきっかけを生んだ人ことなんです」
「……お前、津軽弁使えるのか」
俺は、ジョンに少しの敬意を払いたいと思う。正直ジョンが思い出話をしていたとき、津軽弁が出てくるたび俺は「これは、日本語なのか? それとも……」という考えに陥り、混乱をしていた。さすが、ジョンといっていいぐらいだろう。
並の人間が津軽弁を使えるなんて、本当にすごいことだ。




