百八十七巻目 ちょっとした津軽弁
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その後、俺はジョンにミスター安藤の話をして、泡盛を飲んだ偽美希を落ち着かせながら夕食を食べて、そのあとはゆったりと寝ることにした。
今更だけれども、ジョンと一緒に夕食をとるのはかなり久しぶりだ。
「ぐぅぅぅぅーぅぅっ」
偽美希が来たことによってこの家にあった部屋が一つ埋まってしまった。そして、今その部屋からは獣のようなうめき声が聞こえてくる。もちろん、このうめき声は寝息だと思うけれども、絶対にあの部屋には今は入りたくないと思うぐらいだ。
俺はいつものように自分の寝室に戻ろうとした。すると、ジョンが「やぁ」と笑いながら俺に話しかけてきた。
「なんだよ、ジョン」
「いやぁ、さっきあなたから聞いたミスター安藤の話。本当に面白かったですよ」
「冷やかしかよ」
「はい、冷やかしです」
ジョンは冷ややかに笑う。しかし、その冷ややかな笑いにも温かさのある笑いだった。
「冷やかしならもういいだろ? なら、明日もミスター安藤と一緒だからさっさと寝たいんだが?」
「一緒に寝てあげましょうか?」
「結構だ」
「それは残念ですね」
絶対に残念と思っていないような笑顔で、俺を見てきた。ただ、まだ寝かしてくれないようで「もう少し話しましょうよ」と、俺に言ってきた。
「一体、何を話すっていうんだよ」
「そうですねぇ……じゃあ、ミスター安藤の話をしましょうか」
「別に、話をしなくてもいいよ」
「いや、私は話したいんですよ」
どうやら俺の話を無視して、自分の話を通そうとしてくる。本当に、ジョンってやつは面倒な奴だ。
「あれは、さかのぼること十年になりますでしょうかね」
「勝手に話を始める奴だな」
ジョンはいきなり、回想を始めた。
「……っと、その前にノブは私が未来人だということを覚えてますか?」
「……そりゃまあ、覚えているけれども」
「それなら大丈夫です!」
「?」
意味の分からんことを言うのも、こいつの悪いところだろう。
「私はですね、初めてこの時代の日本に来た時しゃべれる言語といったら英語とロシア語とスペイン語、それとちょっとした津軽弁をしゃべれるぐらいだったんですよ」
「ちょっとした津軽弁?」
「最初のころは英語だけでも会話はできたんですけれども、ある任務が上から降りてきたときに、どうしても日本語が必要になりましてですね……」
「ほぉ……」
ジョンはなぜか、自分で話していることで笑ってしまいそうになっている。本当に訳が分からないやつだ。
「それで、この時代にいる知人のつてを伝ってある人物を紹介してもらったんですよ」




