百八十六巻目 長い一日の終わり
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ステージの後の反省会も終わった。終わったその時に電話が凜のところにかかってきた。
電話をかけてきた相手はジョンで、偽美希を明日から一週間休ませてくれというものだった。
「一週間ほど休みを取らして下さいね」
「まぁ、みきみきの調子も記憶喪失のせいか万全とも言えないから休むのはいいんだけれども……」
「だけれども?」
「……いや、なんでもないよ! みきみきの体調を早く良くしてあげてね!」
「……もちろんですよ!」
ジョンは、電話の最後に「今日は、美希のことを車で迎えに行きますけれども、りんりんも乗っていきますか?」と言った。
「いいよ。今日はみきみきと一緒に帰ってね」
「わかりました」
―――
「それでは、明日からまた美希のほうは休みを頂いてますからよろしくお願いしますね」
「分かったよ! じょんじょん!」
「りんりんは理解力が本当に良くて助かりますよ!」
車で迎えに来たジョンは、凜に直接明日から美希を休ませることをお願いした。凜はすぐにそれを承諾し、美希は明日から休むことが決まった。
「ほかのメンバーにはうまいこと言っておくから、なるべく早く戻ってくるようにしてね。お客さん、美希の可愛さと頑張ってる姿が好きな人多いから、売り上げにも影響しちゃうからね」
「さすが、アイドルのプロデューサーは言うことが違いますね」
「プロデューサーって……そんな大層なもんじゃないよ、私は」
「謙遜するところが、人の心をつかむ秘訣何でしょうかね~」
「本当にじょんじょんは、意地悪だね」
「意地悪こそ、私の真の姿ですからね」
そんな話をした後ジョンは美希を連れて、車に乗りこみ家へと帰っていった。
「―――最近、じょんじょんなんだかオーラが黒いんだよね」
「監督、どうかしたんですか?」
「ドック……いや、どうもしないよ」
「そうですか……無理しないで私たちに色々と話をしてくださいね、監督!」
「……ありがと」
※※※※
「ノブ、今帰りました」
「信長様ぁ!」
玄関の扉が開く音がして、二人の声が聞こえる。ジョンの声は、いつも帰ってくる時の声で聞きなれている。だけれども、偽美希の声はなぜだかわからないけれども酔っている感じの声だった。
リビングに入ってきた二人の姿は、俺には考えもつかないような恰好だった。
「なんで、そんな感じなんだよ……」
「そんな感じとは何ですか。私は普通に偽美希のことをおぶっているだけですよ」
「だから、なんでおぶっているんだよ」
「どうやら、彼女が鈴木さんに帰る前に泡盛を飲まされたらしいんですよ」
「えぇ……」
偽美希の顔を見ると、頬どころか顔全体、体全体が真っ赤になっていてゆでだこのようだった。
「信長様ぁ~。わたしゃはすごいでしゅよ」 呂律が回っていない彼女。これでは意思疎通は難しそうだ。
「しっかりと立つことも難しかったので、こうおぶってかえってきたという訳ですよ」
「なるほどな」
「はい」
まぁ、なんで泡盛を飲まされたのかは分からないけれども、そう言うことであればいいだろう。
…………なんで、俺は偽美希が泡盛を飲まされて、ジョンにおぶられているのを気にしているんだ? 自分でもわけが分からない。なぜ、俺はこんなにも気にしているんだろう?
「ところでノブ」
「えっ? 何?」
「ミスター安藤とは、今日はどうでしたか?」
まったく。こいつは嫌なところを突いてきやがる。こう言うところもひっくるめてジョンなんだろうな。




