百八十五巻目 時代劇っぽい
久しぶりに書いたので、良かったです
『みなのものー! 今日は、我らせんごくろりぺっぷの集会に参上つかまつっていただき、誠に光栄であるぅぅう!』
『おーぅっ!』
地下ステージでのライブの最初は必ず、美希の挨拶から始まる。これは、ロリポップ結成当時からの伝統だ。だから、たとえ偽美希であったとしてもその挨拶はしなければならない。
しかし、たとえ踊りや歌を覚えていた偽美希であっても、ステージの挨拶をしっかりと覚えているかというとそうでは無かった。ステージが始まる前のリハーサルでは周りのメンバーが「いい? 挨拶は今から言うことを言えばいいから」と、すべて話してくれて、「それをステージが始まったら言えばいいから!」と言ってくれた。
「ただ、そんなすぐに覚えられるとは思えないから最悪適当に言えばいいからね! お客さんには悪いけれども、こればっかりは仕方がないことだからね……」
メンバーらも、記憶喪失になってしまった美希がしっかりとあいさつを出来るとは思ってもいなかった。ただ、美希のリハーサル時の動きを見て一気にあいさつの説明をしただけだ。だから、たとえ美希が挨拶を失敗したとしても責めるつもりはなかった。ただ、お客さんを歓迎してくれるようなことを言ってくれればそれだけでよかった。
ただ、偽美希がお客さんに発したあいさつというのは完璧なものであり、さらに言うとものすごく違う完璧な挨拶だったのだ。
「えっ? 美希?」
『みなのもの! 最高のステージにしようじゃないか!』
『おーっ!』
美希(偽美希)の力強い挨拶は、お客さんたちになんら違和感を与えることなく、むしろこのステージに最適応しているものになっているのだ。お客さんをしらけさせることなく、むしろ客さんの熱い思いを駆り立ててステージを熱いものにさせている。
まさにステージマスターと言った感じだった。
だからこそ、他のメンバーは偽美希のことを止めることも出来なった。
『それではいこうではないか! 曲の歌唱とやらを!』
『ウォーっ!』
―――
「……美希、今日はなんかすごかったわね」
「そうか?」
「そうよ! 今のしゃべり方もいつもと違うし、挨拶もなんか……時代劇っぽいっていうか……」
ステージが終わり、舞台裏に戻り偽美希と話をしているのは、偽美希に違和感を覚えた戸区だ。戸区は、偽美希に対して挨拶に違和感があったことを伝えた。しかし、そんなことを言われたとしても偽美希は反応を示すはずもなく「そうか」の一言を発するだけだった。
「まぁ、戸区ちゃん。お客さんの受けもよかったんだし、記憶喪失が影響しているだけかもしれないし……ね?」
「瑠衣ちゃんが言うのもそうだけれども……やっぱりいつもと違うと心配なのよね……」
「戸区ちゃんは、美希のこと好き好きだからねぇ~」
「可愛いから、好きに決まってるじゃん!」
戸区は本気でそのことを瑠衣に伝えた。本当にものすごい、大きな声で。
「はやく、記憶が戻ってほしいな……」 戸区は、美希の記憶回復を本気で望んでいた。




