百八十四巻目 記憶喪失
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「なるほど。この服を着ればいいだな?」
「そうよ、美希」
偽美希はジョンにいつものステージのところに連れてこられて凜に「それでは、美希のほうをよろしくです」といわれて置いてこられた。そして凜に「じゃあ、早速衣装を着るんだ!」と言われて今衣装を着させられている。
渡されたスカートを上からかぶるだとか、ブラジャーを家から出るときにつけていなかったとかいろいろなアクシデントがあったもののとりあえずはステージの衣装に着替えることが出来た。
「たしか……今の美希ってえぇっと……記憶喪失なんだよね」
凜は、偽美希に聞こえない程度の声で言葉を漏らす。
「だけれども、踊りとかは覚えていたし歌も歌えるし……記憶喪失っていうのも中々不思議なものねぇ……」
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「監督と美希さん入りまーす」
リハーサルのため、偽美希は凜と一緒にステージに上がることになった。記憶喪失ということになっているので、凜がそのことをほかのロリポップのメンバーに説明するためだ。
偽美希以外のメンバーはすでにステージに上がっていて、話をしている。いつもであれば子の中に美希が入っていき、色々と話したのちリハーサルが始まるのだが、今日は違う。
「みんな。ちょっと集まってくれない」
凜がロリポップのメンバーたちに呼びかける。いつもとは違う状況に戸惑いつつも、ロリポップのメンバーは監督である凜の元へと集合した。
数名のメンバーであるが、やはり呼びだされたことに騒めき始めている。
「監督、どうかしたんですか?」
戸区が、凜に聞く。ものすごく、心配している顔で彼女は凜に聞いている。
「えっとね……その、あれよ! 美希のことでみんなに言わないといけないことがあるの」
「えっ?」
メンバーたちは、凜が話した内容に驚いている。
「一体、何があったというんですか?」 戸区が大きな声で凜に聞く。
「実はね……記憶喪失になったみたいなのよ」
「記憶喪失になった……?」
さっきまでの、驚いてひんやりとした空気感が、凜が偽美希が記憶喪失の身だということを説明すると、なんか変な空気になった。
「……あんたらにしては、意外な反応ね」
「いや、なんか、記憶喪失って言われると……なんかどう反応して良いか分からないんですよね……」 戸区が答える。
他のメンバーも口々に「リーダーが余命宣告受けたかと思った」「辞めちゃうのかと思った」とざわざわと話している。
「まぁ、そうよね。記憶喪失って言われてもどうしろ、って言う感じだからねぇ……」
「そうですよ」
偽美希は凛とメンバーが話している間、近づいてきた鈴木さんと男くさい話をしていた。
しかし、今その内容は語るにも足りないものなので割愛したいと思う。
「あの、凜さん」
「なに? ドック?」 ドックというのは凜が呼ぶ戸区のあだ名だ。
「美希は、ダンスとか、歌とかも忘れてるってことですか?」
「いや、それがダンスとか歌は忘れていないで、しっかりとやれるのよ」
「えぇ……不思議ですねぇ」
「ホント不思議よね、記憶喪失って」
彼女らはとりあえず、記憶喪失って言うのが不思議ということで折り合いをつけたらしい。
「まぁ、そう言うことだから細かい立ち位置はもしかしたら忘れてるかもしれないからそこらへんは美希のサポートをお願いしたいわけよ」
「そう言うことでしたら、安心してください! 私たちは、全力でみきみきのことをサポートしますから!」
メンバーたちは、凜にそう答えた。
「よし! じゃあ、リハーサルを始めて!」
こうして、とりあえずリハーサルを始めることになった。凜の宣言を聞いて、男くさい話をしていた二人は、話をやめることにしてそれぞれの役職に戻ることになった。
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