百八十二巻 洋式と和式
まず、最初に取り掛かったのは国語だ。国語なら、何とか解けそうな気がしたから、それからやることにしたんだ。
――――
「……はい、終了」
「……」
「とりあえず休憩五分間」
……まずい。この織田信長、試験如きに命を削られた。
一体、どういうことなんだ。現代文というのは、あれは一体どういうことなんだ。俺が、この時代に読んでいた本というと、漫画やライトノベルだし、勿論現代文の問題はどこかライトノベルみたいな感じだけれども、なんかよく分からない難しさがあって結局残ったのは、分からないというものだった。
後の問題は、まぁまぁ解けたし、よしとすることにしよう。
五分間の休憩を与えられたわけだけれども、正直何をしたらいいかわからない。次の教科の内容を見るわけにもいかないし(見たところで、絶望感しかないだろう)、彼に気安く話し掛けることもしたくはない。
急須に残っていたお茶を、俺の湯飲みにとりあえず淹れる。色は濃い緑色になっていた。
彼は、俺が解いた答案を見ることをせずにすぐにカバンにしまった。そして、タブレットを取りだして何かを見始めていた。ちょうど、その画面は俺の視覚の死角に入るため見ることはできなかったけれども、どこか暗い様子に見えた。
テレビをつけるわけにもいかないので、外をボーっと眺めたりしてみたりする。そう言えば、俺が初めてこの家に来た時は、ここから眺める景色が一番綺麗で格好良くて、ものすごいと思っていた。だけれども、もうそう言った感情は現れなくなっている。
俺は、この時代に慣れ過ぎたんだ。おかしな話、正直俺は本当に織田信長なのかさえ分からなくなって来ている。本当は、今の時代の織田信長で、昔の織田信長の記憶というのはすべて悪い夢だったんじゃないのかな、と思うようになってきているんだ。こっちの時代の方が便利だということもあるけれども、何をするにももう現代の方法でしかできなくなってきている。トイレなんて、和式じゃもう疲れてしまうよ。やっぱり洋式。あれが一番さ。
「おし。じゃあ、二コマ目の試験に移るか」
「はい」
どうやら、五分間が過ぎていってしまったようだ。じゃあ、また試験を始めるとしよう。




