十八巻目 急いで山崎に向かえ
「ノブ、意外とあなたは純粋なんですね」
「うるさいな、勝手に心をのぞくなよ」
ふざけやがって。なんでジョンはそんなに俺の心をのぞくのだろうか? というか、のぞく必要性って何なんだろうか?
「別に、私が心を覗かなくてもあなたの顔の表情は正直ですよ。そんなににやにやして、私でも少し気持ち悪いと思ってますよ」
いつもにやにやしてるやつが何を言うか。
だけどもまぁ、にやにやしていることは本当のことだ。逆にこの状況でにやにやしないほうが、神経を疑うさ。今にやにやしないで、いつにやにやするというのだ? 今こそにやにやしなければいけないのだ!
「今考えていることも、私は読むことができますからね」
「ちっ・・・」
くそ、いつか掻っ捌いてやる。
※※※※
天正10年6月3日
「えっ? 本能寺がやられたの?」
男はきょとんとした表情で、男の下のものにそう返す。
「・・・はい、そのようです」
下の者も、青ざめた表情だ。
男もその表情から何か察したようだ。
「お館様は?」
「・・・」
「えぇ・・・まじかよ」
彼ら、戦いの最中に信長の死を知った。ゆえに、このように驚くのは当たり前だろう。今の今まで彼のもとで働いていて、その彼が今は死んでしまったのだから。
「ど、どうしたらいいのかな?」
「それは・・・秀吉様が決めることですよ」
「だよね~・・・ははっ!」
「笑っている場合じゃないですよ。もし、この事が毛利の奴らに伝わっていたら、攻めて来るかもしれませんよ!」
男の下の者は男の笑う姿を見て、マジ切れした。
「すみませんでした」
男は、青ざめ謝罪した。
「以後、気を付けてくださいね」
「はい、本当にすみませんでした」
この二人の間には、上下の関係など無かったのだ。
「とりあえず、早急に軍議を開くからみんなを集めておいてくれるか?」
「分かりました」
男の指示を受けて、下の者は出ていった。
「さて、どうしようかな・・・」
悩む、激しく悩み、男はある人物に顔を向ける。
「それは、お前が考えることだ」
「それは知っているけれどもさ・・・ジェルマン教えてよ」
「未来を知ったところで何になるんだ、この猿が」
冷たい声で、ジェルマンはそう言い放つ。
「ちょっと今、イラッと来たよ」
顔を真っ赤にして男は言い返す。
「ハハッ、気にすることはないさ。どうせお前がいずれは天下を取るのだからな」
「いつも思うけど、そんな嘘は俺には通用しないよ?」
「嘘だと思っているうちが花さ。嘘だと思っている方が楽しいからな」
「馬鹿にしやがって・・・・・・まぁ、いいけれどもね」
男はにやりと笑い、「次はどこに向かえばいいのかな?」という。
ジェルマンも笑って返す。
「急いで山崎に向かえ」




