百七十六巻目 チャイム
そのあとはやることもなく、とりあえず布団の中に入った。昼間寝ていたこともあって、中々眠ることが出来ず、目を閉じて気づかないうちに眠ってしまうことを待っていた。
ただ、睡魔というのも悪魔の一種だ。悪魔というのは人に害をなすというけれども、その街というのはいたずらの域のもので生死にかかわるものでは無い。たとえば、睡魔は普通であれば眠ってはいけないもしくは眠りたくないときにやってくる悪魔で、人を眠らしてしまう力がある。
俺は、全く眠くなかったからそんな人のところに行くんであれば俺のところに来てくれと願っていたのに、結局睡魔は悪魔だったから俺のところに来ることはなかった。悪魔は、人が望むときにはやってこない。悪魔というのは、人が望んでいないときにひっそりと忍び寄るようにやって来て、そして人を貶めていくのだ。もしかしたら、俺は睡魔では無いまた違った悪魔にとらわれていたのかもしれない。どういう悪魔なのか、気になりはするけれども結果として俺に残ったのは、朝起きた時の少しの眠気だった。
朝起きて、リビングに向かうとそこにはお茶を飲んでいるジョンの姿があった。それはいつもと同じ光景だった。その隣には偽美希の姿があり、偽美希もジョンと同じようにお茶を飲んでいた。ただ、いつもと同じような光景なのに、どこかその姿には緊張感というか、なんとも言えない空気がまとっていた。
「あぁ、ノブ」
頭をポリポリと書きながらぼーっと二人のことを見ていた俺に、ジョンは気づいたようで声をかけてきた。
「おはようございます」
「おはよう、ジョン」
「おはようございます、信長様」
「おはよ」
朝の挨拶というのは大事なものだ。
俺は、いつも座っている席に座りジョンが淹れてくれたお茶を飲む。そのお茶はいつもと同じ味がする。
また、ぼーっとしながらテレビを見ているとジョンが「ノブ」とまた俺の名前を呼んできた。
「ミスター安藤が来るまでは、私たちはここにいますが。来たら、私は偽美希をロリポップのところに連れていって、私は研究所に行ってきます」
「そうか。ミスター安藤は何時ごろ着く予定なんだ?」
「今が朝の六時ですから……八時には着くはずですよ」
「そうか…………」
あと二時間……暇だな。
ただ、暇をつぶすものなんてこの家にはないから、あきらめよう。
――――
「さて、ノブ。そろそろですよ」
壁にかけられている時計を見てみると、針はちょうど八時をさしていた。
「ミスター安藤は、時間に関してはかなりルーズです。だからちょうどの時間に来るなんて思わない方がいいですよ」
「それって、人格的に問題があるんじゃないのか?」
「ははっ。確かにその通りなのかもしれませんね。確かにかのじ……彼は、頭はいいんですけれども人格は崩壊していますからね」
人格が崩壊している人間に俺は教えられるのか。どうすればいいんだろうかなぁ……
俺がそんなことを考えていると、玄関の方からチャイムの音がなった。
「さっ、ノブ。受験戦争の始まりですよ」
そのチャイムとともに、俺の受験戦争が幕を開けた。




