百七十四巻目 本当に面倒で
「私は、彼女とこれからの話をしていたんですよ」
「これからの話?」
一体どういう話だ?
「美希がいなくなってしまった以上、この時代に来てしまった偽美希はこの時代の美希の役割を全うしなければいけません」
「まぁ、そうなるよな」
「だから、私は今の時間まで彼女にその役割を全うする義務があるということを語りつくしていたのです」
ジョンは、かなり疲れた顔をしながらそう言ってくる。
「彼女は、理解は早いんですよ。だけれども、私の事をどうも信用していないようで、何かにつけて疑問や、拒絶をしてくるんですよねぇ……それだけが本当に面倒で」
ジョンの口から面倒という言葉を聞くのは初めてだろう。こいつはこれでもかなり優秀な人間だから、ある程度のことは簡単にこなしていしまう。だから、ジョンが面倒だというんであれば、それほど偽美希に対する説明というのが面倒だったということだろう。いったい、どんな風な話し合いが行われていたのか、見てみたい気もする。
「ただ、もう結論が出まして偽美希がステージに出るということで決着がつきました」
「そりゃあ良かったなぁ」
まぁ、決着が付いたことは良かったと思う。だけれども、さっきから俺が思っていることをジョンにぶつけたら、ジョンはどういう風に思うだろうか?
「でもジョン。偽美希が明日からステージに出るとしても、練習とかしていないのに大丈夫か?」
俺が心配してそんな風に言ってやると、ジョンは「ふふっ」と笑い「その心配は必要ありません」と言ってきた。
「どういうことだ?」
「実はですね、偽美希の頭にはしっかりとした意識しても思い出せないようなもので美希の記憶があるようで、踊りや歌はすべて今まで通りに歌えるんですよ」
「?」
えっ? 一体どういうこと?
「だけれどもですね、そのしっかりとした美希の記憶というのは意識しても思い出せないようなもので、自然に出るのを待つしかないようなんですよ。それしか私には言えません」
「そうなのか……」
まぁ、とりあえず受け流しておくことにしよう。
「信長様」
偽美希が俺の名前を呼ぶ。
「どうした?」
「私、信長様のためを思って、戦わせていただきます……。必ずや勝って見せます!」
「お、おう」
一体、偽美希はジョンに何を吹き込まれたんだろうか。それに、何と戦うというんだ?
やる気があるのはありがたいけれども、誤って人を殺してしまうのだけは避けてほしいな。
「ノブ」
「なんだよ、ジョン」
「とりあえず、時間もいいですからご飯にしましょうか」
「……そうだな」
飯を食べてからいろんなことを考えたりすることにしよう。




