百七十二巻目 仁義に厚い人
そのあと俺はジョンに急かされるようにすぐに寝た。寝る前に偽美希が「良く分かりませんが、あの南蛮人は信用するに値しませんよ?」と助言をしてくれたけれども「大丈夫、あいつはあんな感じでも根は真面目だから」とジョンを擁護する言葉を伝えて、偽美希を寝室から追い出した。
寝ていた時の夢の話をしよう。
俺は、ようやくこの時代から俺が元々いた時代に戻ることが出来た。そして俺は、復活した信長としてキリストと同じようにもてはやされて、この時代で見につけた様々な技術を家臣とか町人たちに教えて、国の活性化を図るのだ。
そして、俺が見ていた夢の世界では信長というだけで世界中の人間すべてが「あぁ、あの素敵な国のことか」と思うようになっているのだ。つまりは、俺はこの日本という国を新たに統一して、世界でも一番の国にしたというわけだ。
もちろん、これは夢の中だけの話だ。だけれども、いずれは実現したいと、いや実現するだろう。
目が覚めると、俺はそこが現実だと気づき一瞬だけ絶望した。夢の中では素晴らしい国の上の人間としてあがめられているというのに、今の自分は元の時代にも戻れない何もないただの青年だということに。
だけれどもその絶望の後に俺はこう考えた。明日からの安藤とかいうひとの話をしっかりと聞き、学び高卒認定を合格し、大学にも合格し、大学を卒業して立派な知識を得る。そして、それを元の時代に持って帰り、素晴らしい国にするということだ。
俺は、やらなければいけないんだ。俺がいた時代は俺を求めているはずだ。俺は、求められている思いにこたえなければいけない。俺は、俺自身で、俺の世界を救わなければいけない。俺の世界を救い、さらに作り上げ誰にでも自慢できるものにしなくてはいけない。
世界の人の心に信長あれ。
それこそが、今の俺の座右の銘だ。
とりあえず俺は、そのまま起きてジョンと偽美希がいる部屋へと向かった。
向かってみるとそこにはロリポップのDVDを食いつくように見ている二人が居た。
「いいですか、美希。いや、ノブと同じように偽美希と呼びます。あなたは明日から、今見ている映像に登場している人達の中で、今見ているようなことをしてもらいます」
「この、流れているえいぞうっていうのは、どこかの遊郭のえいぞうなのか?」
「まぁ、ある意味そうですけれども違いますよ。とりあえず、あなたの今の姿はこの映像に映っている美希の姿ですから、拒否権はないですよ」
「……たとえ、故意ではないにせよ、体を借りてしまったのは悪いことだ。その悪いことを贖罪するためであれば、それも仕方のないことだな」
「あなたは意外と仁義に厚い人ですね」
そう言うと二人は握手を交わしていた。
どうやら、偽美希もライブに出演することになるらしい。練習もしていないのに、どうなってしまうんだろう……。
 




