百七十巻目 アメリカの話をする猿さん
「さて、それでしたらノブ。今日はもう家に帰りましょう。明日からは、夏期講習というものが始まると思っていてくださいね?」
ジョンは、俺にそれを伝えると「さっ、美希。もう食べ終わりましたよね? さっさと帰りましょう!」と言って、会計を始めてしまった。
「もう少し食べたかったのに……」
偽美希は、すこし寂し気にそうつぶやいた。どれだけ食べれば偽美希は気が済むんだ?
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「えっっと、犬。お前どこに住んでるんだ?」
信長様は、私に聞いてきた。それも、かなり回答に困る質問をだ。
「私は……言って分かるか分かりませんが、東京の人形町っていうところに住んでます」
「人形……町? なんだ、そのおとぎ話みたいな町の名前は?」
「私も分かりませんよ、なんでこんな名前になったのかなんて。ただ、いいところだということは断言できますね」
「だけど、東京だろ? あの、クソ田舎で、クソ見てぇな奴らしか集まっていないあのクソ東京だろ?」
「おい、信長そこまで言うこたぁねぇだろ? お前が言うクソ田舎で、クソ見てぇな奴らしか集まっていない東京は今、徳川様のおかげで日本、いや世界を代表する都市になるんだからよぉ。アメリカ、ニューヨークよりもすごい都市になる予定なんだからよぉ」
「世界を代表する都市? アメリカ、ニューヨーク?」
おかしい。ずっと信長様の話や猿さんの話を聞いていたけれども、やっぱり何かがおかしい。
この時代は、私が知っているこの時代はどっちかっていうと信長様がチート的な強さを持っていて、強すぎるという時代だ。信長様が亡くなった後は、そこにいる猿さんに色々あって権力がわたって、その猿さんもなくなった後にようやく徳川さんの時代になるんだ。
それなのに、私が今いるこの世界の信長様はなんというか、見た目的にも強そうな(もちろん力はありそうだけれども、権力的なものは持ち合わせていなさそうな感じがする)感じがせず、どちらかというとただ野次をしているだけの変わった人のように見えてしまうんだ。
そして、これは未来に行ってから知ったことだけれどもアメリカというのは、まだこの時代であれば関わり合いを持っていない国のはずだ。それなのに、なんでこの時代の猿さんはアメリカの話をしているんだろ。
「まぁいいや、犬。ここは関西、京都だ。お前が何ものかなんて言うのは興味ねぇから、俺の質問に一つだけ答えろ」
「何ですか?」
信長様はニッコリと笑った。
「今日、泊まる場所はあるか?」
私は、この人のことであれば信用することが出来る。どうせ当てもないことだから甘えてみよう。
「無いです」
「そうか……じゃあ、うちに来い」
やっぱり、この人はいい人だな。
たとえ時代や世界は変わっても、信長様は信長様なんだな。
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