百六十七巻目 怖い二人
「ノブが働き始めて、もう何か月が経ったでしょうか。別に数える気はないのでどうでもいいのですが、かなり経ったはずです」
「その通り」
鈴木さんが、返す。僕は普通に聞く。偽美希は、食事に夢中で話なんて聞いていない。
「実を言いますと、ノブには少し謝らなければいけないことがあります」
「謝らなければいけないこと?」
ジョンは、反省した顔になり水を一度飲み、話し始めた。
「ノブのお金を毎月天引きしていたのですよ」
「天引き?」
「簡単に言いますと、お金を抜いていたということですね」
お金を抜いていた? そういえば、いつも給料はジョンからもらっていたからな。給料は、銀行の口座に振り込まれる仕組みになっていて、銀行の口座の作り方が分からない俺は、ジョンの口座を借りて給料をもらうことにしていた。だから、ジョンがおろして給料を貰うということだったのだが……。
「もちろん、電気ガス水道の光熱費と携帯代、必要最低限の食費は徴収していましたが、それ以外にも徴収していたんですよ」
「なるほど」
お金を勝手に徴収されていたようだが、別段困ることはなかったので良しとしよう。
「黙っていて、すみませんでした。ただ、それにはノブにやって欲しいことがあったからなんですよ」
「やって欲しい事?」
ジョンは再度水を飲む。
「ミスター鈴木。あなたは確か、昔大学で教鞭を執っていましたよね?」
「確かに私は昔、大学で教えていたよ?」
「それなら、私の言いたいことが分かるはずです」
「なるほど。君も同じことを考えていたか」
「やはり、ミスター鈴木は人を見る目がありますね」
「何を言うか。私はこれでも大学を辞めさせられた人間だよ?」
どうやら、二人の話したかったこと言うのは同じだったらしく、笑いあっている。
「ノブ、あなたには大学に行ってほしいんですよ」
「生贄ボーイ。君は大学に行きなさい」
「エビチリ、とってくる」
三人の声が一緒に聞こえた。一人は何が違ったことを言っていたが、無視をしよう。
「大学……ですか?」
なぜ、二人は俺に大学に行けと言ってくるんだ? さっき、鈴木さんが言っていたことがつながっているのか?
「君には、大学で学んでほしいことがあるんですよ。だから、私は毎月少しずつですが、お金を抜いていたってわけです」
なるほど。お金の話はこうやって結びつくわけか。
「だけれども、ジョン、鈴木さん。俺が大学に行ったところで何になるっていうんだ? 俺は大層な勉強はしたことないし、そもそも大学へ行くにはこうこうっていうやつに行かないといけないんだろ?」
「そこら辺は大丈夫です、ノブ。ね? ミスター鈴木」
「あぁ。その通りだ生贄ボーイ」
なぜ、二人はこんなにも笑いながら俺の方を見ているのだろうか。かなり怖いよ。




