十六巻目 めせんうぉ~む~け~て~
「ノブ、お待たせしました」
「遅かったじゃないか」
「すみません」
ノブが謝るのも無理ないよね。と、いうかもうね、時間がね、非常に経過したらね。彼女が来たのが昼ぐらいなのに、もうあれだからね、夜だからね。もうさ、暇すぎたんだよ・・・。まさか未来に来てこんなに暇になるとは思っていなかったからな・・・。
「それでは、ご対面と行きましょうか」
「と、その前に質問がある」
「どうしたんですか、ノブ?」
質問つったらそれしかないだろう。
「どうして、こんなに時間を割く必要があったんだ。教えてくれないか?」
これを聞かずして、この先の物事をすすめるわけには行かない。
「そうですね・・・あっ! まぁ、彼女に会えば分かりますから」
「本当に?」
「本当です」
どうも、ジョンの顔に張り付いた笑顔が無性に腹を立たせる。まったく、どうしていつもそんな顔をすることができるのだろうかね・・・。いつか、ジョンの生い立ちを聞いてみたいものだよ。どんな教育を受けてきたんだろうか。今はそんな事、どうでもいいんだけれどもね。
「では、登場していただきましょう!」
ジョンは、ものすごーく盛り上げた。いったい、なぜそこまで盛り上げる必要が・・・んっ?
「ジョン、それは何?」
「ラジカセです。ラジオカセットレコーダーです」
「ら・・じおせ?」
「まぁ、名前などただの飾りですよ。問題なのは・・・」
カチッ。
カチッ、という音とともに不思議な音楽が流れた。なんというか、騒がしいというか、変というか・・・。
そして、その音楽に乗りながらジョンは歌いだしたのだ。
「あつい~たいようが~めせんうぉ~む~け~て~・・・」
お世辞にもうまいとは言えない。だけれども、歌ってる本人はものすごく楽しそうだから、口出しするのはやめよう。
「さぁ、ノブも一緒に!」
一緒にといわれてもな・・・。
「おっ、ようやく来たようですよ! 主役の登場です!!!!」
ジョンが暑苦しい。こういうのをてんしょんが高いというのだろ? というか、主役って俺じゃなかったんだ。
ジョンの歌声とともに、とてつもなくかわいい声が聞こえてきた。その声はジョンと同じ歌を歌っているようだが、格段にうまい。格段に聞きやすい歌だ。
「真夏の~ラブソング、私が今、歌ってるから~」
かわいい・・・かわいいぞ! こんなにかわいらしい声は・・・・・・
「お待たせしましたノブ。これが私のお土産です」
かわえぇ、かわえぇよ・・・。
「ノブ、聞いてますか?」
かわいすぎる!
「かわいいーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
初めてだ。女に対してここまでの思いを抱くのは。だけれどもそれは恋とかそういうものではなく、ただ「可愛い!」という感じのやつだ。こんなに叫ぶことなんて戦でもない。今俺は、ものすごく興奮しているのだ!
「ノブ、少し静かに」
「すまん、ジョン」
俺が叫んだ途端、ラジカセをジョンは即座にストップさせ、かわいい声も「ふえっ!?」と、驚いたような声をあげ、止まってしまった。
俺は、なんてことをしてしまったのだろうか・・・。




