百五十八巻目 話は唐突に始まるものだ
中にはいると、みそ汁のいい香りと中のもやっとした空気が体を包み込んだ。奥に窓があって、そこからは日が差し込んでいて厨房のほうを輝き照らし出している。
「あら、鈴木さんじゃない」
「どうも、朝ごはんを食べに来ました」
「朝ごはんっていったって、もうお昼よ?」
「お昼でも朝ごはんですよ」
鈴木さんは入ったと同時に女店主に話しかけられた。これから察するに、鈴木さんと女店主は仲がいいということだろう。
「でっ、そちらのカップルは?」
「おっ! やっぱりカップルに見えますか」
「カップルじゃないの?」
「日本的にはカップルというよりかはフレンドといった方が正しいですね」
「なるほど」
女店主は何を納得してるのだろうか? それに、なんかすごくにやにやとこっちを見ている。なんだか怖いものを感じる。
「あぁ、生贄ボーイ。こちらの方、どこかで見覚えはないかい?」
鈴木さんが、俺に聞いてくる。見覚えといわれてもこの人とは初対面なんだし、見覚えもクソも……でも、なぜだろう知っている。この人について何か知っているような、ほぼ毎日見ているような…………
そう思ってしまったので、少し悩んでいると偽美希が震えだして
「信長様……もう……限界です…………」
と、小さな声でいって倒れてしまった。
「あら、まぁ」
女店主は小さな声で驚いた。
「まぁ、とりあえず美希を椅子に座らせてあげてくれ生贄ボーイ」
「はい」
この対応が果たして正しいのかは分からないが、鈴木さんの言葉に従うことにした。
「どうせ、食事が届けば目が覚めるさ。空腹で気絶しているだけだと思うからね」
鈴木さん。空腹で気絶って、よっぽどですよ。
―――
女店主は厨房に戻って何か料理を作ってくれている。厨房には他に誰かいるようで、女店主が指示するような声も聞こえる。料理を間だ頼んでもいないのに、料理を作ってくれている。これはそういうタイプのお店なのだろうか。
俺たち三人以外の客は一人もいなくて、鈴木さん的に言うと懐かしい光景が広がっている。店の外見は汚さにも新しさを感じるものだが、中にはいると新しさというには程遠いヤニによって汚れた木の壁や、そこにメニューが書かれた紙が貼られている。
「どうだい、生贄ボーイ。中々いい店だろ?」
「そう……ですね」
俺にはよく理解できなかった。こういう店には入ったことないし、鈴木さんの思う懐かしいというものは俺に取っては新しいものなのだ。こう言った矛盾を感じながら考えてしゃべるというのはかなり難しいものだ。
厨房から女店主が出てきて水を三人分とキンキンに冷えた水が入っているボトルを置いていってくれた。
そして、鈴木さんは出された水を一気飲みした。鈴木さんものどが渇いていたのか?
「生贄ボーイ。料理が来る前に、なぜ俺が君を呼んだのかを話さなければいけない」
話は唐突に始まるものだ。こちらの都合などお構いなしに。まだ、水飲んでなかったからよかったけど、水飲んでる途中だったら確実に鈴木さんの顔に噴き出してたよ。




