百五十七巻目 中に入ることが出来た
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率直に言おう。俺と偽美希は今ものすごく腹が減っている。さっきまで、鈴木さんとあった時は俺はそれほどでもなかったけれども、今では何か腹に入れなくては生きていけないほどだ。偽美希に至っては水分も切れたようでしきりに「み……水」と繰り返している始末だ。
なぜ俺たち二人がこのような状態に陥ったのか。それはすべて鈴木さんのせいなのだ。
もちろん、鈴木さんのせいと一口に言ってしまうと鈴木さんが悪者のように見えるのでこれだけは言っておく。鈴木さんをここまで駆り立ててしまったのはすべて俺のせいなのだ。俺が朝食の場所を鈴木さんに任せなければこんなに苦しむ必要はなかった。
朝八時に家を出発してから三時間。色々あって秋葉原には九時に着いたわけだから、そこから二時間も経っている。その間の時間の経過は着席した状態では無くただ黙々と電気街のムンムンとした熱気の中を鈴木さんの昔話を聞きながら歩くという、満腹時であればいい腹ごなしになったのかもしれないが、今の俺たち二人にとっては拷問のような時間だ。
鈴木さんは前、車が運転できると言っていたからもしお願いしていたら、車で連れていってくれたかもしれない。ダメ元でも言ってみれば良かったと今後悔している。もちろん、そこに気づかなかったことも後悔している。
秋葉原駅のほうへと向かい、そこから末広町のほうへと向かい蔵前橋通りを延々と歩いて行く。途中のぼりが立っているファミリーレストランに心を奪われながらも、前を歩く昔話をしている鈴木さんについていった。
場所はどんどんと変わっていき本郷通りに入った。そして本郷三丁目を過ぎた時だっただろうか。鈴木さんがいきなり「道を間違えた」と言ったもんだから内心「なにやってんだ……」と思いながらも、道を引き返す鈴木さんについていった。偽美希はこの時すでに今のような状態になっていた。そして、正しい道に入ったらしく昔話の合間に鼻歌を交えるようになった。
そして、本郷通りから一本脇へ伸びている細い路地に入り「もうすぐで着くぞ」と言ってくれた。
この時の言葉がどれほど心地いいものだったか、分かる人がいるならばすごいと思う。
そして、細い路地を突き当たりまで進みついた先には少し汚い店、都会には似合わない店があった。
「よし、じゃあ朝食をとろうか」
ようやく外から中に入ることが出来た。




