百五十四巻目 馬とどっちが速いんでしょうね!
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家から出て駅に向かうとき、偽美希は昔俺が思っていたようなことを俺にしゃべりながら歩いていた。かなりうるさかったけれども、とりあえずそこまではまだ楽な方だった。
地獄は、駅から始まったのだ。
俺は定期を持っているから、そのまま行こうとしたけれどもよくよく考えてみたら、偽美希は定期を持っていなかったのだ。だから、切符を買い与える必要があったのだが、まずその切符を買うところから偽美希は暴走をし始めるのだ。
比較的乗降客が多いので、いくらICカードが発達した今日でも切符を買う乗客は多いのだ。なので、当然切符を求め列を成すのだが、偽美希は、その並んでいる光景をみて「信長様、吐きそうです……」と言って、今にでも吐きそうな体制になっていた。
さすがにここで、さらに言うと朝からはかれては俺の気分も周りの人達にも迷惑になるので、とりあえず人ごみの少ない場所に美希を移動させ「ここに居て」とつけ置きをして切符を買って偽美希のところに戻ったんだけれども、なぜだか偽美希の姿はなかったんだよね。
偽美希がいないことに、俺はかなり焦って周囲を見渡してみると灯台下暗しというやつで、偽美希がしゃがんで何かをやっているじゃないか。偽美希に「何をやっているのか?」と問いただすと、「立っていると疲れてしまいます故、しゃがんでおりました」と返事が来た。男であれば、しゃがんでいても別におかしくはないけれども、さすがに女がこんな駅のところでそれをやるとなると驚くしかない。とりあえず俺は偽美希に切符を渡して無理やり電車に乗せようとした。
しかし、ここにも関門があったのだ。
改札機というのは、初心者には難しい機械の一つだ。俺も初めて使ったときどこにどう券を入れていいのか迷ったほどだ。ICカードは原理が分かっていないとなおさら難しい。
それを、昨日来た(実際問題良く分からないけれども)奴にそれをやらせるというのはもっと、難しいものだったのだ。
そこに気づかず俺は定期でスイスイっと入場してしまい、偽美希は券を入れずに入場をしようとして、ずっと自動改札機に止められっぱなし。それのせいで偽美希の後ろにはたくさんの人の列。
偽美希がいないことに気づき、偽美希がどこにいるのかを探すと立ち往生していることが分かったので、券をどういう風に入れるのかを一分ぐらい説明して偽美希は入場することができた。その間、俺たちがかなり白い目で見られていたというのは内緒だ。
駅の構内に入るのもこれだけの苦労なのだが、それ以上に偽美希が暴走してしまうポイントがある。これは、ここで分かったことなのだが彼女は動く機械。それも車やら鉄道にかなりの興味があるらしい。
ホームに出て並んで、電車がホームに入線してくると偽美希は大きな声で「うぉぉぉぅつ!!!!」と雄たけびを上げた。女なのに、雄たけびをあげた。
あまりにも大きな声だったので、周りの人がまたこちらを見てきたので、それを知らんぷりしつつ彼女をなだめることにした。
そして、その電車に乗った後速い速度で進んでいく風景を見ながら「馬とどっちが速いんでしょうね!」とウキウキしながら聞いてくる。まったく、困ったものだよ。
兎にも角にも、色々と疲れたけれども、とりあえず秋葉原につくことができた。
俺だけだとこいつを制御できなさそうだ。鈴木さんとあってから朝食をとることにしよう。




