百四十七巻目 面白いことを言うもんだな
「いや、あなたは死んでいませんよ。ものすごく元気に生きていますよ」
「嘘つけ、南蛮人! 信長様がいるということはそう言うことだ! 信長様は本能寺にて……くそっ!」
「いやいや、だからノブは……」
「うるさい!」
俺は確かに生きている。もちろん、いきなり未来に連れて来られて混乱しているのは分かる。だけれども、俺のことをそんなに死んでる死んでる言われ、俺の心が落ち着くわけがないだろ? だけど、ここで俺が何か言うと面倒なことに……
「何を言っているんですか!」
突然、二人の間に割って入る声が現れた。大きな声だったので、二人とも会話をやめてその声の主を見た。
声の主とは、神様のことだ。
「信長は確かに、本能寺の変で言われたとされています」
神様までも、俺のことを死んだ扱いしてくる。
そんな風に落胆をしていたら、神様がその落胆を裏切るようにこう言ってきた。
「だけれどもおかしいと思いませんか? 死んだはずなのに死体がない。そんな話あるはずがありません。もしかしたら、盗人が信長の骨が欲しいと盗っていったのかもしれませんが、それにしたっておかしい話です」
「何を言っているんだ。信長様はあそこで死んだんだよ」
「少し黙っていてくださいね」
「……」
どうしよう。神様が本気モードになってしまった。なんかものすごい説明口調になり始めてしまった。俺はここにいるわけで、俺のことは俺が一番知っているわけだけれども、とりあえず神様を止めるわけにもいかないから、黙って聞くことにしよう。
「私はこう考えます。信長は絶対に本能寺にはその時いなかったんですよ。信長は、絶対にあの場所にはいなかったんです」
「なんでそう考えるんだ?」
あの人が神様にそう言って聞く。確かになんでそんな風に考えるんだろうか?
そうすると、神様は少しニヤッとしながらこう言った。
「いや、その方が面白いじゃないですか」
面白い……か。神様らしいといえば神様らしいけれども。
だけれどもその面白さを真面目に受けてしまう人がいる。それこそが、あの人だ。
「面白いからといっても、事実は事実だ。馬鹿げたことを言うな! 信長様を愚弄すると許さんぞ!」
神様のさっきのニヤッとした顔にイラついたのかどうかわからないが、かなりかっかとした感じで神様に怒ってきた。
神様はそれに対して、涼し気な顔をしてこう返してきた。
「ならば、あなたはその場所にいたんですか? あなたは信長と一緒にいたんですか?」
「……」
これには、あの人も何も言えず、黙ってしまった。
「私はですね、そう言った矛盾を取り除くために、そう言った矛盾を解消するために今の研究をしているんです。私が信長を助け出してあげたいんですよ。歴史の闇に沈んでしまった信長をね」
「ふっ。お前に何ができるんだ?」
「助け出した後に、酒を一緒に飲むぐらいですかね?」
神様も、面白いことを言うもんだな。




