百三十五巻目 美希のような姿をした人
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歩いていくうちに、あることに私は気づいていった。それは、この世界の雰囲気についてだ。やっぱりどこを探しても電柱はないし、アスファルトなんて見えやしない。それどころか、人の痕跡すら発見できないのだから本当にびっくりだ。
そして、空にはまぶしいぐらいの太陽が照っていて、飛行機なんて飛んでいるとは到底思えなかった。飛行機雲が、そこにあったらどんなにうれしいだろうか。
思い起こせば私の人生は本当に悲惨なものだった。
いろんな人に仕えては、裏切られ、そして自分自身も裏切っていった。その報いが今着ているというのであれば、私はこう思う。少し、やりすぎじゃないの? とね。
「信長様は大丈夫かな……」
やはり、あの人は私にとって、本当に大事な人だった。それなのに、私はとんでもないことをしでかしてしまった。
いや、本当はしでかしてはいないし、その時私は信長様の近くにいたんだ。
私は、いつの間にか時代というものの中にある、壊れている部分に引きずり込まれてしまったのだ。
引きずり込まれてしまったあとは、なにも見えない暗闇だ。
それでも私は、どうにかして明かりを見つけようとしたけれども、少しだけ光が見えたら今のように暗闇に戻されてしまった。
いつになったら、私は本当の光に出会えるのだろうか……。
※※※※
「どうですか? この庭は私のお気に入りでもあるんですよ」
ジョンは引きつった笑顔で俺たちに中庭の紹介をするが、どこか焦っている様子が見えて、どこか何かを隠している様子が見えて、俺としても対応に困るほどだった。
「まぁ、ここに来た理由は先ほどなんとなく聞きましたから、とりあえずは落ち着いてください」
落ち着けるのであれば落ち着きたいのだが、いや、俺は落ち着いているんだが、もう一人のほうがそわそわしていて、今にでも動き始めそうな感じだ。
「私は、おいしいコーヒーを入れてあなたたちをもてなします。あなたたちは、今はもてなされていればいいです!」
と、つたない日本語で、強い語尾をつけてジョンはコーヒーを淹れに研究所の中に戻っていってしまった。
場所がはっきりと分かっていない中で、行動するのはあまり得策ではない。神様が今にでも動き出しそうだけれども、とりあえずそれは無視をしてジョンがコーヒーを淹れてくれるのを待つことにしよう。
と、俺がそう思って中庭に咲く花を見ていた時、どこか懐かしい声が聞こえてきた。
「―――なぜ、こんなところに、信長様のような人が……? なぜ? 一体……」
だけれども、その声というのは声高で、まるで女性の声のようだった。
そして、神様は「あれ? あれは、リーダーじゃないですかね?」といって、俺にある人を指さしてみるように迫ってきた。
見てみると、そこには確かに美希のような姿をした人がいた。




