百三十巻目 感動の再会とは言えない
明日も投稿します
今回は、カギかっこを使いたいだけ使いました。
楽しかったです
最初、俺は普通に美希が行方不明になったから探しに来ただけなのに、なんでこんなところまで来ているんだ? というか、今更だけれども美希ってもしかしたら誘拐されたんじゃないのか? それだったら、なんかすごいことに巻き込まれてしまった気がするよ、俺は。
※※※※
「遅い……連絡もないし、生贄君も帰ってこないし…………」
「まぁまぁ、確かに心配だけれども、冷静になりなよ」
「冷静で何かいられないわよ! お客さんだって来てるし、それに……」
「それに?」
「大事な部下が何かに巻き込まれてたら……なにか嫌なものに巻き込まれていたら嫌じゃない」
「まったく……君には強引さというものが足りないね」
「……どういうことよ?」
「リーダーである以上は、強引さというもので下のものをまとめなければいけないんだ」
「……」
「その強引さがたとえその時に痛みを与えるものであっても、下のものを守らなければ意味がないんだ」
「…………」
「まっ、そこが凛君のいいところなんだけれどもね」
「……先生はそういうところがずるいですよ」
「ずるいのは嫌いかい?」
「そういうずるさを、私は大学で学んだんですよ」
「そりゃ、良い学び方をしたね」
――――
「もうすぐ、開場の時間ね」
「そうだね」
「まだ帰ってこないわね……」
「凛君や」
「何?」
「もし、良ければなんだけれどもね」
「先生が頼みごととは珍しいわね」
「君から、生贄君に大学に行くように言ってくれないかな?」
「どうして?」
「彼には、才能があるよ」
「先生がそう言うのも珍しい」
「お願いするよ」
「……分かった。伝えておく」
「さすが、凛君だ」
※※※※
建物に最初に入った時は、普通のさっきまでいた大学みたいな感じだったけれども、ここまで奥に入ってみると、さっきの綺麗な研究所とは全く違う感じで、ものすごく汚い、蜘蛛の巣とかがかかっているところに来た。
「ここらへんはですね、生贄殿」
「はい?」
神様が、しゃべり始めた。
「本当であれば、赤外線のセンサーがここらへんをガンガンと照らしているんですけど、さっき私が防護服を着ながらセンサーのおおもとの部分を壊してきたんですよ。ですけれどもね」
「ですけれど?」
俺がそう聞き返すと、神様は「ハハハっ!」と笑いそして、「はぁ……」と深いため息をついて、俺に言った。
「どうやら、赤外線以外のセンサーがあったようで、生贄殿周りを見てください」
神様の神経がとうとう狂ってしまったのかと思いながら、俺は神様の言葉に素直に従ってみることにした。すると、
「どうです? 可愛い女性の方々が上から私たちに向かって銃口を向けてるじゃないですか!」
「ほんとだ……」
上を見てると、にこやかな笑顔を浮かべた白衣の女の子たちが、俺と神様のことを狙っていたんだ。
「銃口を向けている人間に、話し合いなど無意味です。話している間に撃たれてしまっては、馬鹿ですからね!」
と言って、神様はものすごいダッシュをして奥の方へと走りだした。
「生贄殿、早くこっちに来ないと死んでしまいますよ!」
確かに神様の言う通り早く逃げないと死んでしまう気がする。女の子の笑顔が不安感をものすごく与えてくるんだよな。
とりあえず俺は、神様を追いかけるようにしてこの場から逃げ走り始めた。
するとどうだろうか、後ろの方から着地する音が聞こえたと思ったら、追いかけてくる音がするじゃないか。いくら走るのが得意な俺であっても、すこしきついものがあるよ。
「生贄殿! リーダーはもうすぐです! さぁ、もっと早く!」
神様は、外見からは感じさせないような速さで走っている。もしかしたら、俺よりも早いかもしれない。だけれども、今そんなことを考えている余裕はない。神様の今までの発言から、神様の発言に関する信用性は高いと思える。それに、こんな状況だから神様も下手な嘘はつけないだろう。
もう少し頑張れば、美希に会える。それだけを考えて俺は逃げ走る。
――――
「ここです、ここのはずです……?」
自信なさげな声は、いつもの神様では考えられないような声だ。
そして、神様の言葉の語尾が疑問形だったことに俺は更なる不安感を覚えた。
本気で走って逃げたから、銃を構えた女の子は見えなくなったけれども、僕に取っては逃げた先の場所も分からずとてもつらかった。それに、美希がいるといったからここまで来れたが、結局美希のすがたなんて先が暗くて見えなかった。
「本当に、ここに美希がいるんですか?」
不安を払しょくするために、俺は神様に聞いてみる。だけれども、神様は絶望した表情を浮かべながらある一点を見つめていた。
俺も、神様が見ている一点を見つめることにした。すると、そこにはなにか白い影が動いているように見えた。
「感動の再会を私は期待していたのですが、感動の再会とは言えない、辛い再会になるかもしれませんね……」
一体、神様は何を言っているのだろうか?




