十二巻目 腹が立つ笑顔
「織田・・・信長・・・?」
「まぁ、信長っていったら信長ですけど」
俺はそう答える。当たり前の事を聞かれているからね。だけれども、女性はまだまだあわあわとしていて、少しばかり額に汗をかいている。よほどの俺のファンなのだろうか。
「あっ・・・なるほど」 とつぜんジョンがそんなことをつぶやいた。
じょんは、何かに納得したようで、すごく自信気な顔をしている。なんだか腹が立つな。
「ノブ、ちょっとだけ部屋をはずしてもいいですか?」
ジョンは笑顔で聞いてくる。ちょっとだけその笑顔には腹が立つものがあるが、俺が断る理由はない。まぁ、いいだろう。
「うん、いいけれどもどうして?」 理由を聞いておくぐらいはいいだろう。それぐらいはね。
するとジョンは「ノブについて彼女にくわしく説明したいので」 と、言ってきた。
「説明するんだったら、ここでもできるんじゃないの?」
説明ぐらいだったら別にここでも出来るのに、なぜ部屋をはずさなければならないのか? 俺はものすごく疑問に思った。まぁ、ジョンにも都合があるのはわかるが、それでもちょっとなぁ・・・。
「・・・行きましょ、ジョン」
彼女が声を出す。出てきた言葉は、ジョンの意見に賛同するものだった。まぁ、ジョンは天然なところを置いておて非常に信頼が置ける人間だ。ジョンの意見に従ってみるのもいいものかもしれない。
ジョンと彼女は外に出ていってしまった。ようやく出会えたと思った、美しき人がどこかへ行ってしまうのは悲しいが、またすぐに会えるのならば致し方ないことだろう。はぁ、早く帰ってこないかな・・・。帰ってくるまで、ジョンが買ってきてくれた本を熟読しなくては。
※※※※
「やっぱり、あなたが―――でしたか・・・」
「・・・」
女は無言を貫いた。けっして語ることはなく、ただ無言を貫いたのだ。
ジョンはさらに続けた。
「しかし、そうなるとこれからいろいろとめんどくさいですね・・・」
「・・・これからもよろしくね」
「まぁ、あなたのファンですからできる限りのことはしますけれども、いずれはばれてしまうことですよ?」
女は少しばかり涙目になっていた。
「ばれるまでは・・・ねっ?」
「元のあなたを知っていると、あなたのその言葉も気持ち悪く感じますね・・・」
「でも、もともとの記憶はないし・・・」
「でも、ノブの名前を聞くと焦ってしまうでしょ?」
「それは、多分深層心理になにかあるんだと思うけれども・・・」
「・・・」
「・・・」
二人は沈黙ののち、信長のもとへと帰った。




