百十六巻目 流しておけばいいだろう
ケーキ、ざっは……なんとかと言っていたと思うけれども、名前とかはどうでもいい。このケーキものすごくおいしいよ。
「ザッハトルテですよ」
「そう! ザッハトルテ! これ、おいしいよジョン」
「そうでしょ? そうでしょう?」
ジョンがものすごく上機嫌で、私が話したことにものすごく同意して、「さっ、たくさんありますから食べちゃってくださいね!」と言ってくる。
「このザッハトルテはですね、時代をかなりさかのぼってホテルザッハーで無理を言って買ってきてもらったものなんですよ。ジェルマンがエドゥアルト君と友達で本当に良かったですよ」
何を言っているのかは、相変わらずわからないけれどもこのケーキはやはり貴重なものらしい。素晴らしい、この味は本当に素晴らしいよ……
「ケーキを食べている姿は、本当にかわいらしい女の子ですよ」
まったく……お世辞の上手な奴だ。
※※※※
「もしさ、あれなんだけれどもさ」
「はい?」
ステージも佳境を超えてようやく暇になってきた演出側で、鈴木さんは俺にまた話をし始めた。
「もし、お金がまだ残ってるんだったらさ」
「はい」
「うちのところで勉強してみねぇか?」
「は?」
その言葉は、もう訳が分からない言葉だった。いきなりうちのところで、それも、勉強してみねぇか?といわれても、返答するのが難しい。
「勉強してみないか?」
「言い方が問題じゃないんですよ」
「違うの?」
「違います?」
確かに、鈴木さんは頭がいい。それはさっきも言ったと思うからそう言うことだ。だけれども、勉強するということになると話は別だ。そもそも、俺は今別に勉強したい気分ではないし、今後一切勉強する気もない。
でも、鈴木さんがせっかく誘ってくれているのであれば、少し位聞いてみるのもいいかもしれないと思う気持ちもある。
「いやぁさ、生贄ボーイってさ、何かわかんないけれども頭は良さそうなんだよね」
「ありがとうございます」
何かわからないけれども、鈴木さんがほめてくれた。
「だけれどもね、ちょっとしたところが抜けてるっていうか、計算は基本的にダメじゃん」
「あぁ……」
今度は、鈴木さんが俺の痛いところをつついてきた。
「だからさ、基本的な数学を教えたいんよ」
「あぁ……なるほど……」
数学を教えたい……か。確かに数学の計算の部分はいずれ勉強をしたいとおもっていたけれどもなぁ…………。
「ちょっとだけ、待ってもらえませんかね?」
「うん、待ってるよいつまでも。ただ、暇なときでいいからね」
とりあえず、こんな感じで流しておけばいいだろう。




