百十四巻目 そこじゃないですよ!
「そんなわけないじゃないですか」
「本当か?」
「本当ですよ」
「行きたいと思わないのか?」
「冷静に言われると、何にも言えなくなってしまいますよ」
風俗に行きたいかどうかを答えてしまうと、どちらにしてもおかしな方向性に持ってかれそうだった。だからこそ俺は、答えを濁すことにしたのだ。
「あっ、美希とやってんのか」
思い出したかのように、鈴木さんはそう言った。
もう、俺はその言葉を無視することにした。
※※※※
「お待たせしました」
緊張しっぱなしの十分間だった。
「正確には、十二分ですよ」
「遅れてるんじゃないわよ」
「ごめんなさい」
緊張しっぱなしの十二分間だった。
感覚的には一時間ぐらいに感じられたが、疲労度を考えてみると一日子の固い床で寝ていたように思える。
「準備ができましたので、あなたを拘束している器具をはずしましょう」
ジョンはこれまた不敵な笑みで私にそんなことを言ってきた。
そして、スーパーコンピューターのようなところに行って何かのスイッチを押した。
「!?」
手首や足首にあった謎の違和感、拘束具がなくなりいつも通りの自由が効くようになった。
ただ一つ言えるのは、長時間拘束されていた状態だったから自由に動かしても今度はまた、新しい違和感が私の感覚を支配し始めたということだ。
「とりあえず、座ってください。落ち着いてコーヒーを飲みましょう」
新しい違和感を覚えつつも、私は今まで寝ていた固いところ(布団のない、鉄製のベットみたいなもの)に座ってみた。
「そこじゃないですよ! 歩いてこっちまで来てください」
何かわからないけれども、ジョンに対してイラつきを覚えた。
ただ、そのイラつきをぶつけるためにも奴のそばに行かなければならないので、まずは歩くために立ってみることにした。
ガタッ
「えっ?」
私は立ち上がった瞬間に横へと倒れてしまった。そして、そのまま新しい硬い地面のところに頭をぶつけてしまい
「イテッ!」
と、大きな声を出してしまった。
「あれ? まだ麻酔効いてましたかな?」
麻酔っていったい何のことなんだろう・・・まさか、駅でやられたのが麻酔だというのだろうか?
※※※※
「性欲、食欲に金をつぎ込まないとなると一体何に使うっていうんだい?」
「そうですね・・・」
性欲がないとは言わないし、食欲がないとも言えない。どちらとも人並みにはあると思う。
だけれどもそれに対して、お金を使ってどうかするかというのはちょっと違うと俺は思う。
じゃあ、それらに使わないとなると、アルバイトで稼いだ金はいったいどこに消えているのかという疑問がわいてくる。これは必然的なことだ。
だけれども、俺はその疑問に対して答えを持っていなかったのだ。
自分自身でも、稼いだお金をどう使っているのかをあまり認識していなかったのだ。
自分の趣味や、携帯電話代などには消えていると思うけれどもそれにしたって金は余る。
一体それらのお金はどこにあるのだろうか。




