百十三巻目 風俗?
「ただ、説明するには少し準備が必要なのですよ」
ジョンは手に持っている注射器を私の視界の死角になっているところにある多分机のようなものに置いた。
そして、手を一回だけたたき大きな音を出した。
「あと十分待っていてください。私のほうの作業も終わりますし、あなたに説明する準備も整いますから」
そのことを言い終わると、ジョンはどこかに行ってしまった。
「ふぅ・・・」
私は少しだけため息をついて、少しだけ気持ちを落ち着けようとしたけれども、やっぱり気持ちが落ち着くことはなかった。
時計が見えなくて、時間が分からない。十分が永遠ように感じてしまうよ。
※※※※
「えっ! 今日、リーダー休みなの!?」
「はい・・・美希の方は体調を崩してしまい、お休みをいただいております・・・」
「そうなのか・・・体調が崩しちゃったのか・・・」
ファンの人達には申し訳ないけれども、美希が行方不明だということは言えない。だからこそ、体調が悪くて休んでいるという嘘をつかなくてはいけない。
「・・・じゃあさ、後で見舞いを持ってくるからさ、リーダーに渡しておいてくれないかな」
「あっ! 俺も持ってくる!」
「俺も!俺も!」
ファンの人達は、見舞いを持ってくる見舞いを持ってくると、意思表明をし始めた。本当にファンの人達に愛されているんだな、美希は。
――――
『それでは、今日はリーダーはいないけれども、早く体調が良くなることを祈って、張り切っていきましょう!』
『おーっ!』
ステージが定刻通りに開始されて、ロリポップたちもファンの人達もいつものような盛り上がりを見せている。
「やっぱりすごいですね、ステージって」
「だろ、生贄ボーイ」
ロリポップを運営しているスタッフは凛監督曰く少数精鋭になっていて、十五人という少ないメンバーで運営されている。そのため、チケットを売ったりチケットをちぎったりする。照明をしたり、演出をしたり、音響を調節したり・・・その他たくさんの仕事は自分たちで色々と考えてその時に応じて行動しなければならない。
仕事スキルとしてはこの上ないスキルの獲得ができると思うが、最近風の噂では聞いたことはあるが、ブラックな経営方法といわれたら、そうなのかもしれない。ただそのブラックと一番違うところというのは、働くスタッフたちが不満がないということだ。むしろ、ここで働けてうれしいと思うぐらいだ。
今は音響を鈴木さんと俺の二人で担当をしていて、たわいもない話をしている。
鈴木さんはロリポップを運営しているスタッフの中でも一番の年上で、噂では凛監督の先生(何の先生かは知らない)だったらしく、凛監督とも唯一タメ口で会話をしている。
頭も良く、ドックの一般人にはわからないような話も鈴木さんがドックの話し相手になると、さも普通の会話をしているように見えるんだ。もちろん、内容は理解できないけどもね。
ステージではいつものようにロリポップのメンバーが踊ったり歌ったりしている。
美希のことは心配だけれども、こうやってファンの人達が盛り上がってくれるのはうれしいものだ。
「そういえばなんだけれどもさ」
「はい?」
ステージを見ながら、しみじみとしていた俺に鈴木さんが唐突に話しかけてきた。
「凛がさ、俺に生贄ボーイのこと聞いてきたんだけどさ」
「はい」
一体、凛監督が俺のなにを鈴木さんに聞いたというのだろうか。
「お給料、何に使ってんの? 風俗?」
あぁ・・・やっぱりこの人も凛監督と同じ考えの持ち主か。
凛監督の周りはやっぱり、何かがずれてるな。




