百十一巻目 俺ぐらいだろう
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私は、何をしているんだ。
悠長に、ゆったりと寝ていたけれども私は本当に馬鹿をやってしまった。というか、なぜこんな当たり前の事に気が付かなかったのだろうか。あぁ、もう。取り返しのつかないことをやってしまった。
「どうしましたか?」
ジョンは私の心の異様な騒ぎを読み取り、私を心配してそう聞いてきた。心配してくれることはありがたいけれども、そもそもの原因を考えてみるとこいつのせいなので結果としては、腹立たしくなってしまう。
私はジョンに対して、様々な順序を取っ払って「私を拘束しているものの除去と、電話を要求する」とどこかの誘拐犯見たいな台詞を言った。
いつもであればこの台詞を聞いたジョンは、にこやかな顔で「それは出来ません」とか「もちろんです! 今すぐにはずしましょう」とかをすぐに言ってくれるのだが、今回に限ってはジョンはいつもと違う反応を見せたのだった。
「残念ですが、あなたには協力してもらわなければいけません。なぜならそれは、この時代においての正しい選択なのですから」
まるで英語の直訳のような文章をジョンは口走った。そしてその顔にはいつものような笑みはなく、機械的な、実験者のような顔をしていた。口調も非常に冷たいものだった。
ここで私は初めて、ジョンの素顔というものを知ることになった。知らなくても良かったはずなのに、知ってしまうのはとてもつらいことだ。
怖い、怖い。私の心はそれだけで埋め尽くされていった。
※※※※
「遅すぎる。電車が遅延していたとしても遅すぎますよ!」
「そうだよな、ドック。やっぱり遅すぎるよな・・・・・・」
ドックといわれているのはロリポップでも頭脳派と知られている戸区香織だ。彼女は誰もが見てもやばい性格の持ち主で、いやもちろんいい人間であることは間違いないんだけれども、なんかちょっとね・・・といった感覚を周りに人に与えてしまう人間なのだ。
かなり前に彼女と仲良くなろうとして、俺が「好きなものは何?」と聞いたら「みき!」と即答した。木の幹が好きな女子なんて早々いないのだから、私は彼女に「素晴らしい考えの持ち主だ」と言葉をかけた。その日から俺と彼女の中は友情というもので結ばれた。あとなぜか美希の写真をたくさん持っている。きっとリーダーとして美希のことを尊敬していて、そのリーダーのことを研究しているんだろう。さすが頭脳派だ。
監督とドックの会話は美希の出勤を心配しているものだ。というか、今ここにいるスタッフ全員が美希がここに来ないのを心配をしている。
俺がここで働き始めてからかなりの期間になるけれども、美希が休みの日以外にこの場所に来なかったことはないし、遅刻なんて今まで一度たりともなかった。むしろほかのスタッフよりも早めにきて、お茶を淹れてくれたりしてくれたものだ。本当にリーダーとしてふさわしい人間だ。これ以上にふさわしい人間は・・・俺ぐらいだろう。




