百十巻目 実験室です
「・・・ここは?」
とりあえず声を出してみる。自分の中で意識があるかどうか確認する方法で、声を出すというのはとても重要なことだ。もし声が出なかったら、自分の意識と実際の意識がずれているということになるからな。
さっきジョンが何かを取りだして、その直後に意識を失ってからどのようにしてここにたどり着いたかは分からないけれども、一つだけ言えることはここがどこかわからないということだ。
意識はあるにせよ、まだはっきりとしておらずちょっと頭の痛みを感じる。
「おや、お姫様がお目覚めですか。お早いことに」
うるさい。頭の痛みがあるのに、こうもジョンにしゃべられてしまっては痛みが悪化するだけだ。
「うるさい」
とりあえず私は、いま思っていることの一部だけを的確ではないかもしれないけれどもジョンに向かって発信してみた。
するとジョンは、ニコニコした顔で、「あなたが知っているかどうかは知りませんが、私は人の心が読めるのでしゃべるのがつらければしゃべらなくても大丈夫ですよ」、と言ってきた。なぜ心が読めるのか、というか君の声が黙ってくれればしゃべっても大丈夫なんだけれどもという心の叫びを私は抑えて、とりあえずジョンの意見に素直に従うことにした。
「素直な人は好きですよ。わたしは」
ジョンのほうを見ると、なにやらパソコンのようなものを操作していた。パソコンのようなものという風に表現したのは、外見上はパソコンだけれどもパソコンらしからぬ大きさをしていたからだ。
「これはですね、パソコンのようなパソコン。スーパーパソコンよりもすごいパソコンですよ! ここはこの時代を実験する実験室ですからこれを置くことが許されてるんですよ! これを操作できるのは、本当に光栄なことなんですよ!」
実験室とか、なんかよくわからないことを言っていたけれども、まだしっかりと意識を取り戻していない私は話を聞き流すことにした。
――――
少し時間がたって、私も意識をいつもの状態まで取り戻すことができるようになった。
「なにか、飲み物を飲みますか?」
ジョンは私に聞いてくる。私は心の中で、飲みたい気分じゃないと考えた。
私の心の中を読んだようでジョンは「なら、コーヒー後でコーヒーを淹れましょう。朝コーヒーを飲んでしまったお詫びです」と言い「この時代のブラジル産のいいやつですよ。入手するのにかなり金をかけてしまいましたからおいしく後でおいしく飲んでくださいね」と、にこやかに答えた。
そういえば、朝コーヒーをジョンに飲みつくされたんだけっけ。
なにか大事なことを忘れてる気がするけど、あとでおいしいコーヒーを飲んで気持ちを落ち着かせることにしよう。うん、それがいい。
※※※※
「―――なるほど。ダイヤが乱れてるのね」
「はい、ダイヤが乱れているから遅れているんだと考えられます」
「うーむ・・・」
凛監督にダイヤが乱れていることを伝えると、悩み顔を見せた。
「どうかしたんですか?」
監督が人前で悩む顔を見せるなんて珍しい。
「いや、ちょっと気になることがあってね・・・まぁ、生贄君が気にするないようじゃないから、君はさっさと持ち場に戻って仕事をしちゃってね!」
凛監督はにこやかに俺にそういってきたけれども、顔の色はさっきの悩み顔よりも曇っていた。だけれども、俺はその曇り顔の理由を聞くことはできなかった。
はぁ、この時代に来てから俺は着実にヘタレになってきてるな・・・。




