百六巻目 ただ、殴りたくなってしまったから仕方がない
それにしても今日はやけに外が騒がしい。選挙カーや竹屋が走っているわけでもないのに、何か騒がしい。だけれども、窓からそれを確認しても見つかることはなかった。
一体、これはどういうことなんだろう。
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少し気分を落ち着けるために俺は、シャワーにはいることにした。
爽やかな気分になれば、少し気が楽になれると思ったからだ。
別にアルバイトが嫌なわけでは無い。もちろん好きなわけでもないけれども、色々な人がたくさんいて色々なことを知れるあの空間が俺は好きだ。
でも、なぜか今日は気が乗らないんだ。よくは分からないけれども、なんかこう、その、なんだか説明はできないような心の重みが今日はあるんだ。
ただ、仕事は行かなければいけない。もしかしたら昨日の疲労が今日一気に来ているだけかもしれないからな。
きっと、今日もいいことがあるさ。
※※※※
「あんた、まだ居たんだ」
「おぉ、これは麗しき姫君、美希様」
「なんだよ、美紀様って」
眠りから覚めてリビングに行ったら、寝転がっているジョンの姿が見に入った。
尻をポリポリと掻きながら私に言ってきたから、なんか呆れてしまった。これが女子の家だろうか。と、疑問を思ってしまうほどだ。
私はジョンを横目に、台所に行きお湯を沸かした。これはコーヒーを作って朝のこの眠い気持ちを、苦みを利用してふっ飛ばそうという私の素晴らしい考えのもと行われた行動だ。
私はいつものようにウサギ柄のカップを用意して、いつものようにインスタントコーヒーの瓶を取ろうとした。だけれども、不思議なことにいつもの場所にインスタントコーヒーの瓶がなかったんだ。
おかしいなと思いつつ、瓶を探してみるとこれまた不思議なことにコーヒの瓶がごみ箱に捨てられていたのだ。空になって捨てられているもんだから、私はなんかものすごく驚いてしまった。どうして、瓶が捨てられているのか。どうして、瓶の中身が空っぽなのか。
訳が分からなくて、もうどうしようもなくなってしまった。
「あっ、そうでした」
ジョンの軽い声が聞こえる。
「昨日の夜、眠くならないようにコーヒーを飲んでたらいつの間にかなくなってしまったんですよ、インスタントコーヒー」
それはいつの間にか無くなったっていうか、お前がなくしたんだろうが。
「まぁ、コーヒーが飲めなくても生きていけますから大丈夫ですよ! 人生、そういうこともありますから次頑張りましょうね!」
私は、ジョンのこの言葉を聞いた後やつのことをぼこぼこに殴った。
慈悲もなくぼこぼこに殴ってやった。
謝罪なんてするつもりはない。ただ、殴りたくなってしまったから仕方がない。




