九十七巻目 美しい形をしていて
「そういえば、ノブはしっかりと生活を送っているでしょうか。心配ですね」
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「もう・・・・・・」
犬の話は止まることが無い。止まることを知らないんだ。誰かこの犬にわけのわからない、恥ずかしい話をやめるようにと言ってくれないかな・・・。
辺りはさっきから時間が進んでもうすっかりと夜という雰囲気を醸し出している。どれくらいここにいるのだろうか。時計を確認していなかったので時間がどれくらい進んだか全くわからない。だけれどもひとつわかるのは、時間が経つにつれて周りを歩いている人の目線が少しずつだけれども少なくなっているということだ。きっと周りの人も私たちのことを「ここで何か劇か何かをやっている人なんだろう」と思い、一番最初の冷たい目線から興味がある人だけ私たちに暖かい目線を向けるだけで、急いでいる人はそもそも私たちに気づいていないだろう。
だけれどもひとつ言いたいことがある。温かい目線を向けている人たちにだ。もし、そんな目線を向けているんだったら私を救済してほしい。私を助け出してほしいんだ。
だけれども、その願いは届かないだろう。なぜなら、普通の人であればこんなよくわからない二人に関わることはないだろう。むしろ関わってこられてもちょっとばかり引いてしまうかもしれないな。
だけれども、早く帰りたいし・・・・・・どうすればいいかな・・・・・・・・・・
「美紀? どうしたの、そんな深刻な顔をして?」
すぐにでも、「あなたのせいよ!」と言いたかったけれどもここはグッと堪えなければ。
なにか、今すぐにでもこの犬と別れる方法を考えなきゃ・・・
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「この曲り、この固さ、そしてこの持ちやすさと軽さ。さすが、シラタ印ですね」
神様はなんだかよくわからないことを言って店主の機嫌とっている。店主がものすごい笑顔で「わかりますか!」と言っているから確実だろう。
ここは、秋葉原の駅前から少し離れているけれどもそれほど遠くない場所の路地に入ってビルの中に入って階段を上って二階に行きものすごく埃で汚れた扉のある工具屋だ。
しかし良くもまぁ、こんな薄暗く汚れたところに店を構えようと思ったな。本当にびっくりだよ。入っただけ咳き込んでしまう店なんて多分ここ以外にはないだろうな。むしろあってほしくないよここ以外に。
「生贄殿も見てくださいよ! このシラタ印の素晴らしい形。まるで芸術品のようではありませんか」
神様が見せてくるバールは確かに、美しい形をしていてなんかちょっとばかりほれぼれしてしまう。だけれども、それをほしいかと言われれば「要らない」とすぐに言えるだろう。




