九十四巻目 全く、恐ろしい犬だ
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「あのね私、ロリポップに入ってからいつも美希のことを考えててね・・・」
聞き流そうにも聞き流せなくなってしまった。なんか犬が急に語り始めてしまっているから語るのを止めることができなくなってしまった。私は語りを遮って止めるほどの勇気は持っていないから、黙って犬の語ることをイライラしないとは思うけれども、黙って聞くことにしよう。
「それでね・・・私最近思うようになったことがあってね・・・・・・わかる?」
「分からない! 分かるわけがない!!」とすぐにでも叫びたかったけれども、それを言っていまっては、何だか犬に悪い気がしたから、私はその言葉を一度のみ込んで犬に向かって頷くことにしてみた。
私が頷くのを見た犬は、泣きながら笑顔になった。哀という部分と喜が一緒に登場してしまったようなもんだから、もう訳が分からない。
「分かってくれてたんだね!」
いや、何にもわかってない。ただ頷いただけ。
「わたし・・・うれしいよ・・・・・・」
とうとう犬は泣き崩れてしまい、しゃがんだ体勢からいわゆる女の子座りになってしまった。私はこのままではさっきから見られている周りの人の視線がこれまで以上に強くなってしまうということを恐れ、すぐさま犬を立たせようとしたが、この状態に陥ってしまった犬を立ち上がらせることほどの難しいものはなく、私は妥協案として犬と同じ視線になるためにしゃがんで犬の顔についている涙をぬぐってあげた。
犬は「うーうー」と言いながら泣き続けている。「大丈夫、大丈夫」と言いながら私は犬のことをなだめるが、何が大丈夫なのかどうかは私にも犬にもわからないことなのだ。まぁ、仕方ないよね。その場しのぎなんだから。
このその場しのぎが影響したかどうかは分からないけれども、犬はようやく泣くことをやめ静まってくれた。
しかし、犬は私の顔を見てニッコリとして、何を思ったかわからないが「好き」と言って私の体を抱きしめてくるではないか。そして唇を尖らして私にキスを求めてくるではないか。
「結婚して~」と言いながらキスをしようとしてくるから、私の中の奥底に眠っていた危機回避能力が目を覚まして、私の体を抱いてくる犬を力強く剥がした。剥がす際に犬は高度な技術で私の胸を触ってきたので、次私の体を触ってきたら半殺しにしようと決心した。
「くぅ~ん・・・」 子犬のように、犬は剥がされた後、目をクリクリさせながら鳴いてきた。
全く、恐ろしい犬だ。




