九十三巻目 まだ神様は無言だ
「ねぇ、私の事好き?」
この言葉は、もうどうすればいいのだろう。どう反応するのが正しい反応なんだろうかな。
私はもう、困りに困って、呆れて・・・はぁ・・・・・・もう、どうしようかな?
「私の事愛してる?」
「・・・」
“愛している?”と今度は言われてしまった。この言葉は困るというのを通りこして、思考を停止させてしまう言葉だ。
言っておくけれども私は女で、犬も一応は犬だ。
今まで私は一度たりとも犬に対して「好き」だとか「愛している」と言ったことはない。今まで無視し続けてきたのだから当たり前は当たり前なんだけれどもね、当たり前だからこそ、犬が“愛してる?”と言ってくることが訳が分からないのだ。
好きか嫌いかでいえば私は犬のことは好きな方だ。だけれども、犬のことを愛しているかと聞かれると、それに関しては少しばかり首をかしげてしまう。私は犬のことを愛しているかどうかは分からないんだ。こればっかりは永遠に答えが出ない話だろうな。
「ねぇ・・・」
どうしよう。犬の声色が着実にいろっぽくなっていくじゃないか。息を荒くして、顔を赤らめて・・・まるで発情期の犬のようだ。
・・・発情期の犬?
※※※※
さすがの俺にも正義感というものはある。だけれども、その正義感は本当の危機的状況下でなければ働かない、非常に役立たずな正義感なのだ。神様がまだ俺に危害を消えていないので、まだ正義感が働くことはないだろう。
「・・・」
まだ神様は無言だ。これでは俺も黙っているしかなさそうだ。
だけれどもただ黙っているのもさすがに飽きてきた。だから俺は、神様の行動を慎重に観察するようにして見たんだ。もしかしたら神様の細かい行動の中にこの神様の恐ろしくも不安な行動をしている理由が分かるかもしれないからだ。無駄だとわかっていても、これをするしか他にないんだ。これをしなければ、ただ暇な時間を神様が不正を働いている姿を見ることに充てることになってしまうからな。それだけは避けなくては・・・いや、やってる事は同じことか。
なにやってんだ、俺。
――――
慎重に観察を始めてからかなり時間がたった。適当に神様を見ていた時よりもやはり発見という点に関しては、かなりの点に気づくことが出来た。まず第一に、さっきから汗をかく量が半端じゃないということだ。本当に滝のように流れ出ていて、なんだか感動を覚えるほどだ。第二に、彼の足が先ほどからものすごく細かいステップを刻んでいるということだ。正直、このステップには気持ち悪さを覚えるしかない。
こんな風に、俺はどうでもいい神様の不正ばかりを気づき時間を消化することに専念していた。そしてついに、神様が行動を起こしたのだった。
「あっ・・・」
行動を起こす前に、神様は何かに気づいたかのような声を出した。
俺はずっと観察していたが、突然その声を出されてしまったから何が起きたのかをいろいろと考えてしまった。だけれどもその考えが、今までの時間が無駄になるほどの言葉を神様が口にした。
「そうですよ、バールとかでこの扉をこじ開ければいいんですよ。それにカメラも買うのを忘れてましたから・・・生贄殿、秋葉原に戻りましょう!」
後ろを振り返り、神様は汗だくの顔でさわやかに答えた。
ただ、分かったのは神様が不正を働いていたということだ。こればっかりは絶対だな。




