九十二巻目 犬のその可愛い顔
「・・・」
急に神様が黙ってしまった。いきなり黙られると、ちょっと怖いものがある。やはり人っていうのはなにか音を聞くことによって心を落ち着かせることが出来ると思う。今はその落ち着かせる音がないから、もう何というか怯えてしまうよ、神様に対して。
「・・・ふぅ」
今度はため息をつき始めた。いろいろと忙しい人だな。神様の顔を少しだけのぞいてみると、汗だくで息も激しくなっている。興奮しているのか、焦りとかでこんなかんじになっているかどうかはしらないけれども、とりあえずさっさと何か行動を起こしてほしいよ。
――――
何分ぐらいたっただろうか。十分? 二十分? 数えていないからわからないけれども、カレーを食べた時間よりはここにいるだろう。何という不毛な時間だろうか。
「う~ん・・・」
さっきからは神様の唸り声しか聞こえなくなってしまった。この唸り声は黙っているよりも、怖いものだ。化け物が来そうで、この俺でもビビってしまうほどだ。
神様の行動は唸り声が増えただけで、あとは何一つ変わらずに動かずカギを凝視し続けていた。
ここで、一つ思ったことがある。それは、もしかしたら神様はこの建物に不法侵入しようとしているのではないかということだ。もし不法侵入をしようとしているのであれば、ここで止めなければ、もし警察につかまったときに俺まで共犯で捕まってしまう可能性がある。現代の法律のことは全く知らないけれども、何か分かるんだ。
この神様、なにか不正を働こうとしているということが。
※※※※
「ねぇ、美希」
小さな声で、私の名前を言ってくる。こんなに小さく言われては私も強くは言い返せない。
だから優しく「なに?」と言い返してあげた。
すると急犬が顔を真っ赤にさせ、しゃがみこんでしまった。
「ど、どうしたのよ!?」
あまりにも急なことだったので、私は心配してつい言ってしまった。もしかしたらお腹がいたいのではないか、おなかが急に痛くなってしまったんじゃないか。そんなことを考えてしまった。
そしてしゃがみこんだ犬は急に泣きだしてしまった。なんだかものすごく申し訳ない気持ちだ・・・。
しかし、私の気持ちを知ってか知らずか犬は急に泣き止み、私のほうを上目遣いで見てくるではないか。
「?」
私はいきなりみられたものだから、犬のその可愛い顔をを見て少し顔を赤らめてしまった。
そして、犬に思いもよらないことを言われることになるのは、まだ私は知らなかった。あぁ・・・もう・・・・・・。




