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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
明の年、暗の年
99/443

99 パピィ sideフィーネ






「エレオノーラさん、報告とご相談があるのです。お時間いただけませんか?」



ヴァイスの食堂で話しかけると、何かを探るような笑顔で中佐はぼくを見る。



「…ああ、いいともさ。食事の後でいいのかい?後で執務室においで」


「はい、ありがとうございます」


「ふふん…?まったく、アンタどんだけ化けるんだい。ああ、咲いていく花を見るのは、まったくいい気分だね」


「はは、ぼくなどを花に例えてくださるのはエレオノーラさんだけですよ?でも確かに、毎日楽しくて仕方ないもので…浮かれて見えるのでしょう。では、後程」



食事の後、ぼくは試作品パペットを連れて執務室に入った。



「…は…? これを、アンタとヘルゲとコンラートで?作り上げたって?」


「はい、その通りです。方陣は全て一般に流通しているもので、ぼくの独自技術にて接続、稼働しております。ヘルゲはさらに運動性能を上げる改良を施し、コンラートは中等の生徒を非公式に指導、そのデータ集積によって実現しました」


「…アンタは…独自技術を開発したのかい?方陣同士を繋げて、命令を聞くパペット…ゴーレムを作り上げた?これは軍事に転用されるんじゃないのかい?」


「ゴーレムは土魔法による力技での使役で…術者の力量により、動作の精密度も変わりますね。そのかわり、術者の思い通りの動きを実現する。対してこのパペットは、あらかじめインプットされた動作を、低出力ではありますが安定して自動行使する。ですので、軍事転用というにはいささか機転の利かないものとして棄却されるでしょう。そういう風に、作りました」


「そういう風に、ね…まあ、どっちにしろこれは…世間がひっくりかえるニュースでは、あるね。緑青の上を押さえたってのはいい方策だった。中枢と…山吹はどうなんだい」


「中枢のお役に立つ機能は何も搭載していません。機転が利かないので家事などのメイド的機能は期待できませんし、低出力なので護衛もできません。設定された場所へ荷物を移動させたり、写本の複数作成等のルーチンワークなら可能ですが、対費用効果を考えれば生活魔法で代用できることばかりで実用的ではありません。今回のように”武術の型の見本”ならば、運動性能を活かせて実益も出るというだけなのです。それで、山吹なのですがね」


中佐は、左手に小さなマナを渦巻かせてそれを見つめながら聞いている。

これは中佐が物事を考える時のクセで、連鎖して脳裏に浮かぶ事象のカケラを結びつけるためなのだそうだ。



「…以前、白縹を禁忌にせざるを得なかったフラストレーションを吸収してしまえ、と思いまして。カイさんとカミルさんに主要学舎への演武を依頼しようと思っています。そこを山吹に取材させるのです。軍事転用も、広く一般転用もできないパペットですが、我が国の方陣技術が高水準であることを対外的に宣伝する効果は大きい。その功績を以て中枢も山吹に満足するでしょう。と、このように愚考しますが、いかがですか?」


「ふっ…はっ…あっはっはっはっは!まったく、予想以上のイイ女になったじゃないのさフィーネ!方陣を繋げて稼働させる独自技術の開発だって!?ほんっとにこの娘は想像もできないことをやらかすね!はァ、こんなに楽しいのは久しぶりさね。…さて、その莫大な利益…何の目的だね。ジーヴァ商会の会頭っていったらデミの上客だねぇ?アンタならそんな胡散臭い商会じゃなくたって、まっさらな所を取り込むこともできたろうに。ん?」


「はは、参りましたね。やはり中佐に隠し事は無理です。…移動魔法を味わいたいのですよ。ぼくがまだ味わっていない珍味はあと3つ。移動魔法、心理魔法、古代魔法。禁忌が2つに、伝説級が1つ。このうち、デミ程度の危険を冒せば手に入るのは移動魔法くらいです。…ぼくは、どうしても、喰らいたい」



中佐はぼくの瞳をじっと見つめた。

ニッと笑うと、真剣な顔つきにすぐ変わった。



「…カイとカミルはどうせ了承済だね?広報部長に『禁忌を知っている者へ 中央学舎への取材は禁忌ではない』と”幻覚”で一報をお出し。学舎に出向くのはアンタも含めて三人だね?護衛にハイデマリーを出そう、『幻影ファントム』でアンタとハイデマリーは白縹と悟られないように変装しな。ジーヴァ商会が出したカイとカミルのマネージャーとして、山吹の過剰接触を防ぐのが仕事だ。それと…アンタ一人でデミに出向くのは禁止だよ。デミ市場に目的のモノが出る時期の調査、潜入方法、購入経路については私を通さないと許可しない。いいね?」


「…エレオノーラ中佐…感謝します。幾重にも感謝、します」


「ふん、大事な娘をデミなんぞに気軽に出入りさせる阿呆がどこにいるのさ。気がねなんぞするんじゃないよ」



ぼくは嬉しさを爆発させてしまわないよう、抑えて笑顔を作った。だが、ヴァイスの”母上”は全てお見通しだろう。


一礼して執務室を出る。

パペットを連れたまま、ヴァイスの訓練場へやってきた。




「おう、フィーネ!…そいつ連れてるってことは、OK出たか?」


「うっふっふっふ…カイさん、大正解です…ああ、もう天にも昇る気持ちですよ!どうでしょう、これからお時間があるならこの子と組手というのは?」


「いいねぇ~、さっき任務から帰ったんだが暴れ足りてないんだよ。はぁ~、最近の盗賊団っつーのは根性がなくていけない!もっと食らい付けってんだよ」


「カイ…食らい付かれたのは俺だぞ…50人を魔法なしでぶっ飛ばしてみろよ、そんなこと言えないだろ…」


「んなこと知ってる・・・・よ、ずっとシンクロさせてたじゃん」


「…お前、次は絶対”接触担当”な?ちくしょ、100人規模で魔法使用制限アリの盗賊団探してやる…」


「はは、まあまあ。カイさんの力が有り余ってるということは…格闘術ですね。まず合気柔術からお願いしても?”パピィ”、運動準備だ。カイさん、基本動作も入っていますが割愛いたしますね。パピィ、正面打ち一教を表、裏。攻、守の順で。スピードはお相手をよく見て調整すること。カイさん、守、攻の順でお願いいたします。パピィの動きに慣れたら、指示しながら一通りの技をやっていただけるとありがたいです」


「おーう、了解。こいつ、乱取りもできるんか?」


「ん~、一応できるはずです。でもカイさんの全力は無理ですよ?コンラートの本気60%までならいけると言っていましたが」


「うっほー、そりゃ面白い。よっしゃ、さっさと始めるぜパピィ」



カイさんは楽しそうにパピィと組手を始めた。…うん、スムーズでいい動きだ。ヘルゲに感謝だな。



「なぁフィーネ。パペットだから”パピィ”って、名付けが安直じゃないか~?売れそうな名前とかにしなくていいのかよ?」


「はは、確かに安直なのですがね。子供たちにも呼びやすい方が親しんでもらえるかと。けっこうかわいい仕草もするのですよ、パピィは」


「あー、まあ確かにな。愛玩性もあるなら、武術も好きになってくれるかもしれんしな」



カミルさんは納得すると、乱取りに入ったカイさんに野次を飛ばしながら笑う。


ふふ、ほんとはパペットのパピィではないのですよカミルさん。


僕の愛しい仔犬パピーの、パピィなのです。







  

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