96 こうぎょくのだいぼうけん? sideアロイス
ニコルが来て、ヘルゲと楽しそうに話してる。
フィーがリア先生に飛びついてスリスリするから、リア先生までモフモフに目覚めたっぽい、とか。メガヘルと組手するのは楽しいけど、この前勢い余ってメガヘルの手を棍で叩いちゃって、かわいそうで泣きそうになった、とか。
ヘルゲが気付いているかわからないけど、僕にはニコルが今グラグラなのがよくわかる。…なんとなく、原因もわかる。やっぱり中等・高等の子たちの心を中心に見る教導師っていうのは、数を見てるだけのことはあるんだよね。恋愛関係の悩みだなァ、あれ。
とうとうニコルもそういう時期になったかー。
遅いと言えば遅いし、鈍いと言えば鈍い。
…それが僕らのせいではない、と思いたい…
…やっぱ僕らのせいかなぁ~っ!
でもオスカーのジャマとかはしてないし!
逆に背中押したつもりだし!
…うん、あとはね、本人どうしの問題だから…
見守る。これ一択で。うん。
「アロイス兄さん、あのねー、相談があるんだー」
「ん?なに?」
「ほら、もうだいぶ前になっちゃったけど…商店の人たちに、いっぱいいろんな物貰っちゃったでしょ?お礼したいなーって思ってたんだけど…どう思う?」
「お礼?どんなお礼したいの?」
「あのねっナディヤ姉さんにおいしいクッキーの作り方、教わったの!それ、たくさん焼いて持っていこうかなーって。でも、そんなのやりすぎかなァとか…こう、お礼の加減がわからないっていうか…」
「へぇ~、いいんじゃない?きっとみんな喜ぶよ。どんなクッキーなの?前もアルマと焼いたのを持ってきてくれてたけど、あれとは違うの?」
「あのね、アイスボックスクッキー!それにバターたっぷり目に入れてて、しっとりしてるのにサクサクなの!前に作ったのは図書館で見たレシピだったんだけど、あれよりおいしいの!」
「あぁ~、あのチェックボードパターンになるやつかな?なるほどね、いいんじゃない?今から作る?」
「うん!今から作ったら、夕方の買い物までに間に合うよね?」
「そうだね、んじゃーやりますか」
ニコルは張り切ってレシピを書いた紙を出し、いそいそと準備を始めた。なんだか熱中できるものをやって、頭をリセットしたいって思ってるのがありあり分かるなァ…ま、僕も料理したりお菓子作ることでリセットするからね、いい方法だと思う。
プレーンの生地とココアの生地を作って少し休ませてから、魔法で凍らせる。断面が正方形になるように細長く切って、互い違いに積み重ねる。油紙で包みながら、形を崩さないように密着させて…また凍らせる。
…ん、断面がキレイなチェックボードパターンになってるね。
「うまいじゃないか、ニコル」
「んふふ~、ナディヤ姉さんにも褒めてもらったの。これは自信あるんだ~」
「よし、どんどん焼いていってあげるから。そっちに集中していいよ」
「ハーイ!」
ニコルは熱心に生地を積み重ねては凍らせ、均等になるように丁寧に切っていく。黙々と、真剣に。お礼をしたいのは本当だろう。ディルクさんやドーリスさんに会いたいのも本当。
でも、きっといろいろ考えすぎて疲れてるんだろうなあ…
「ニコル…ちょっとそろそろ作りすぎじゃないかな?お礼には充分だと思うよ~?」
「ん?ふわ!ほんとだ、すっごいいっぱいになっちゃった…ゴメン…」
「あはは、いいんだけどね。余ったら缶にでも入れておけばいいよ。明日持って帰って、みんなで食べれば?」
「うん、そうだね~」
小さな袋に分けて、リボンをかけていく。自分でリボンまで持ってきて…随分考えたんだな。…というか、ほんとにたくさんだな…いや、商店で配ったら…意外とコレ、全部なくなるのかもしれない。ニコルのキラー属性にやられた人がけっこういたからなあ…
大きな袋にクッキーを詰め込んでご機嫌なニコルを見て、ヘルゲがボソッと言い出した。
「…俺も行く」
「「 !!?? 」」
「ヘルゲ…今から行くのは商店だよ?」
「行く」
「ヘルゲ兄さん…私お礼しながらお店を廻るから、時間かかるよ?」
「行く」
「ど…どうしたのヘルゲ…騒ぎになるかもしれないよ?」
「…飢えた獣がいる気がする。行く」
だぁぁぁ!!ニコルにイカれそうな男を牽制するってか!?
やーめーてー、僕をまた忙殺させる気なのー!?
「ヘルゲ…頼む…留守番…」
「行く」
「すっごいね、三人で食材の買い物なんて初めてかな?なんか楽しくなってきたっ」
はぁぁぁ…ヘルゲの女神がノリノリだよ…これは止められない…
僕、毎日あそこで買い物してるんですけど…
せめて目から赤い光線出さないようにクギ刺すしかないか…
こうぎょくのだいぼうけん、はっじまっるよー…
…ああ、泣きたい…