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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
明の年、暗の年
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93 そちもワルよのう In a “demi”meeting

  





『ふむ…なかなかいい動きになったものだね。特にこの反射速度は組手の成果がかなり出ている。ヘルゲクラスの乱取りは無理だとしても、中等から高等で学ぶ格闘術・武術は師範クラスの組手までならインプットできるのは間違いないね』


「ああ、その程度までならな。加えて、ニコルたちが上達していく過程のデータもある。コーチングには最適な集積データになったような気がするんだが…なんでこんなことになったんだか、いまいち俺にもわからん」


『あはは!楽しいことを心の赴くままに追求すると、得てしてそういうことになりがちさ。それでだね、ヘルゲ。せっかくだからメガヘルの集積データを使って、一つ商売をしようと思うんだよ』


「…商売?何を言ってるのかわからんぞ、フィーネ」


『ああ、つまりね。身長160㎝から170㎝の木製パペットにこのデータ入り魔石を仕込む。それを魔法部方陣研究室のお墨付きで、中央や地方の学舎に売り込むわけさ。運動の教師でも武術の得手不得手がある。そこをフォローできる上に、今までのような映像での資料ではなく、実際に見ることのできる、疲れ知らずの”お手本”が来るんだからね。ある程度の売り上げは見込めるよ』


「…師範クラスといっても、師範の免状があるわけじゃないんだぞ」


『またまたァ、ヘルゲ…君は“瞬間記憶”のような事か、集中して見た動きをそのまま再現できるか、それに類することができるだろう』


「…」


『沈黙は肯定と受け取るよ?ま、どの格闘術も武術も高レベルで”再現”していると思わなければ説明がつかないね。なので、メガヘルに入っているデータに不足はないと見るよ』


「金を儲ける意味がよくわからん。お前の方陣を改良しただけだから、それをお前がどうしようと文句はないが」


『ふふふ…実はね。移動魔法の方陣の存在を知っているよね、ヘルゲ』


「ああ、紫紺の…中枢専用の長距離移動魔法だな」


『中枢専用と言ってはいるが、あれは金を積めば買えるというのを知っていたかい?』


「…知らん。特に興味もなかった」


『昔は他部族の反乱等を恐れて、厳重に管理されていたのだがね。遠い地域にいてもマザーが部族間を繋ぐ利便性が浸透するにつれ、そこまで移動手段にこだわらずとも他部族の動向が知れるようになった。それで…裏のマーケットで稀に出回るようになったのさ、資金繰りに困った紫紺のお偉いさんからね』


「ほう…移動魔法の媒体は、魔石ということか?中枢の奥深くの部屋にでも設置されているのかと思っていたが」


『そのようだね。ところで、これを手に入れられれば…ぼくとヘルゲがいれば、もしかして必要数を複製できるかもしれない、と考えているわけだよ』


「…そうだな。移動魔法が“転移型”なのか“空間歪曲型”なのか。着地点の座標設定は固定なのか、フレキシブルなのか。操作にどの程度の制約があるのかを調べてみないと、難易度も変わるな…まあ、手に入れないと検証のしようもないか」


『そういうことさ。どうだい?原型はフィーだとしても、メガヘルの改良と集積データは君とコンラートの努力の賜物だ。君たちに許可を取らないわけにはいかないよ』


「俺はそれでかまわん。商売の関係はそっちに任せていいのか?」


『ああ、問題ないよ。コンラートは出かけてるのかい?彼にも承諾をもらいたいんだよ。それに商売に関ることで、何人かのヴァイスにも協力してもらうつもりなんだ。その話もしたいな』


「あいつは今、ニコルたちの訓練に付き合ってるころだな。今晩にでも会議通信を入れよう」





*****





「っはぁ~、お前えれぇこと考えるなァ。俺はもちろん文句なんかねえよ、フィーネに任せる。だけどよ、裏のマーケットって…アレだろ?」


『そう、“デミ”さ。ご心配には及ばないよ、安全対策はバッチリだからね。ま、デミに出入りできるかどうかよりも、まずは資金調達が先だがね』


「デミってなんだい?隠語?」


「んあー、まあ隠語っつーか、ただの省略された通称なんだけどよ。“デミ・ワールド(裏社会)”ってこったな。端折られて“デミ(半分)”になっちまってるけどな」


「…うーん、なんか…僕がそういうのを知らないから怖いんだとは思うけど…フィーネが心配になる。そんな無茶してでも必要なのか?」


『ありがとう、アロイス。心配をかけるのは本意ではないから、ぼくが本当にデミへ出入りすることになったら、どういう手段でどういう安全対策をするのかきちんと説明すると約束するよ。それと移動魔法の必要性はね、正直言えば“あれば便利だな”というところだ。ぼくの好奇心がうずいているのも否定しない。だが…計画実行時に7つの分体へ仕掛けた方陣に何らかの障害があった時。君らに何かあって、一刻も早く村に行きたい時。そういう時に絶大な力を発揮するとも思っているんだ』


「アロイス、俺もそれは賛成だ。中央から村へ移動に2日かかるところを、一瞬で来れるのだとしたら…その時間は何物にも代えがたい価値を持つと思う」


「うーん…それは、よくわかる…うん、わかったよフィーネ。商売自体は真っ当なんだろ?そこには何も言うべきこともない。ただ…僕らが心配してるっていうのだけは覚えておいて。絶対無理も無茶もしないって、約束してくれよ」


『うん、よくわかったよ。幾重にも慎重に事を運ぶと約束する』


「うっし、そんなら…データは必要十分なんだっけか?何かやることあんのか?」


『いや、もうヘルゲにデータ調整もしてもらったし…ぼくの商売センスの見せどころかな?期待して待っていてくれたまえよ。あ、そうそう。商売でのヴァイスの協力者なんだけどもね。カイさんとカミルさんにお願いしているんだ』


「ハァ?カイとカミルぅ?なんでだ?」


『ふっふっふ…あの二人、山吹に目を付けられるだけあって見目麗しいだろう?そしてカイさんは格闘術師範、カミルさんは武術師範の免状持ちだ。あの二人がパペットと演武してごらんよ…』


「うお…フィーネが黒い…」


『二人にね、“こういうモノを作って売り出す予定なんだ”って相談したらどういう反応をしたと思う?』


「…うあー、あいつらマツリ好きなんだよなァー!ノリノリだったんだろ…」


『ふっふっふっふっふ』


「ん~、いいよーフィーネ。そういう感じ、親近感がわくなー」


「つかよー、軍属でサイドビジネスいいんだっけか?」


『問題ないよ、基本的にぼくの名前は表面に出ないからね。全面協力してくれる方陣研究室の室長が緑青の上の方の人でねぇ。お墨付きで売り出すのもOKだし、室長の息子さんが民部の商業部門で魔法顧問をしているのさ。息子さんが懇意にしている商会の名前で販売してもらい、商会へは売り上げの5%だけ納めればいい。5%の内訳は商会3%、室長1%、息子さん1%だね。破格の手間賃で済んでるのは、中央と地方あわせて500をくだらない学舎へ複数納品できる可能性が高い上に、主要学舎へのプレゼンにカイさんとカミルさんが演武に行く効果を見越してのことさ。ま、その商会の会頭さんもデミの上客なんでね…その辺はぼくが押さえてあるもんだから、税金対策もバッチリだよ』


「「「…もうそこまで計画済なのか…」」」


『というわけで、ぼくはこれから魔石の量産に取り掛かるよ。無理も無茶もしないから、安心してくれたまえ!では!』




「…フィーネって…なんでこんなバイタリティ溢れてるんだろうね」


「そりゃあ移動魔法の方陣見たさだろ…」


「移動魔法の解析なんて、俺もできるかどうかわからんぞ…」


「そうなの?マギ言語でできてるんだろ?」


「移動魔法と心理魔法は禁忌中の禁忌扱いだ。心理魔法はいくつかデータ化されていて見たことがあるから扱えるが、移動魔法はどういう原理なのかさえ未知の魔法なんだぞ…あいつ、俺が解析できると決めてかかってないか…」


「今まで変態魔法を惜しげもなく使いまくってた弊害なんじゃねぇのかァ?諦めろや、そしてグッドラック」


「…」






  

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