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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
くらい火とひかる水
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9 紅の望み sideヘルゲ








ニコルと出会ってからは、ほぼ毎日森へ出かけた。


ダイレクトリンクしてた頃の情操教育のせいで森と海を交互に行くことが習慣化していたが、ニコルに会いたいからな。


ああ、でも生まれ変わって最初の数日は、昼以外はいろんなところをフラフラ歩いたな。




海があんなに複雑に青いとは知らなかった。


水色だったり碧だったり、群青だったり。


波頭が白かったり、砂浜がアイボリーで桜色の貝や茶色の流木や灰色の岩や…




あまりに美しくて、初めて涙というものが出た。


それもこれも、すべてニコルがくれた。





*****





「やっぱりお兄ちゃんたちも、おじいちゃんの声きこえない?」


「ああ」


「うん、聞こえないなぁ」


「だよね…アルマもユッテもきこえないって、いってた」



そうか、ニコルは真の望みの声が外部からだと思っているんだな。


内なる声だからいつでも聞けそうなものだが、このケヤキの大木でしか聞こえないらしい。


力の大きな触媒でもないと、まだニコルに接触できないのかもしれないな。



「それで、いいと思うが」


「よくないよ!おじいちゃん、やさしいんだよ?みんなもなかよくしてほしかったのに、うそつきって…」



なんだと!?誰だニコルを非難などしたバカ者は。


そのアルマか?ユッテか?初等7年生のリストとニコルの周囲にいる大人を後で確認しなければ。


得意魔法に個人資質にプライベート情報から弱点を洗い出してさっそく対応策を予備も含めて各人に10プラン以上必須だ。



「…誰かにうそつきっていわれたの?」


「…うん」



ハッと、我に返る。


アロイスは報復ではなく、ニコルの傷ついた気持ちのケアを優先している。


優しくニコルの肩に手を置き、痛々しいものを見るように、まるで自分もニコルの痛みを感じているように、つらそうに。


報復方法をゴリゴリ模索しようと頭に血を昇らせた自分が情けなくなる…


そうだ、俺はアロイスに全然かなわないんだ。

謙虚に、学ばなければ。





どうしたらニコルは元気になるだろうか。


うそつきと言われて、それを思い返すだけでしょんぼりしているニコル。

うそなどついていないというのに。

あれは、ニコルだけの真の望みなんだ。

俺はそれをイヤと言うほど知っている。





…そうだ、俺しか知らないんだ。




「お前は、うそつきじゃないだろう」


「うん、でも、みんなきこえないなら、しかたないよね…」



ああ、まだ言葉が足りなかったか。しょんぼりが治らない…ええと…



「お前は、うそをついていない」


「…うん」



断言してみた。

俺だけは、本当のことだと知っているのだから、俺だけが断言できる。


…あぁ、よかった。ニコルがうっすらと微笑んだ。


俺の拙い対人スキルで、ニコルが笑顔になるなんて。

アロイスのおかげだな。

ほっとして、俺も肩の力が抜けていく。




*****




どうやら俺は、ニコルが傷ついたり悲しんだりすることが我慢ならないようだ。

まあ当然だな、ニコルは俺の新たな「真の望み」だ。


あれ・・以来、俺は修練で自分の心にダイブすると、驚きでいつも少し戸惑ってしまう。



あんなに禍々しくギシギシしていた紅い広大な空間が、まろく、煌めくような紅になっている。



外界の色彩の奔流には目を回したが、まさか俺が赤い花を見て美しいと見とれる日がくるとは思わなかったし、ダイブした光景を見て感動するなんてもっと意外だった。


俺の心はなめらかに、光が降り注ぎ、区切られてしまっているけれど、それでも愛おしい美しい世界になった。


力にあふれて、これから何でもできそうな気がしている。





ニコル、こんな泣きたいような気持は、きっとお前にはまだわからないだろうな。




最初から、美しい緑の海であるお前には。


世界は美しいものがあふれていて、でもきっと同じくらい腐敗臭のする嘔吐しそうな世界がある。


ニコルが汚いものを見てしまって恐怖におののく時が来るんだろう。



でも大丈夫だ。安心しろ、ニコル。


汚いものを見て怖がってもいいんだ。


もしかしたら自分の中に汚いものを見つけてしまうのかもしれないが、それでも大丈夫だ。



きっとその汚ささえ自分の一部だと、嫌な経験も自分の一部だと愛しく思う日が必ず来る。


それがお前をより強く、より美しい緑の大海原にするんだ。


俺はそれをよく知っている。お前が教えてくれたから。







でも、もしお前の世界を消去そうとするやつがいたら。







大丈夫だ、ニコル。俺が、俺の紅い世界をかけてお前を守ってやるから。



誰にも、何も、お前から奪わせないから。






  

重症化

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