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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
明の年、暗の年
89/443

89 トレース sideニコル

  




週末になり、兄さんたちの家へ泊まりに来ました。

コンラート兄さんはリビングのソファやテーブルを脇に除けて、部屋の中央でメガヘルと組手をしています。メガヘルは、ヘルゲ兄さんが「動くぬいぐるみの動作検証をするのに必要だから」というので私と一緒に買いに行ったんですが…なんでこんなスゴイ動きになってるんだろ…



「よう、ニコルちゃん。メガヘル、けっこう滑らかな動きになっただろー?」


「うん…スゴイね…でもこんな本格的なら、くまじゃ辛かったかな…」


「あー、手足短すぎだもんなァ」



よそ見して私とおしゃべりしてても、余裕でメガヘルを捌くコンラート兄さんは苦笑い。一方のメガヘルは、「手足が短い」と聞いた途端に攻撃をやめ、しょぼーんと俯いて自分の短い手を見つめてる…きゃああ、かわいいいい!



「メガヘルぅ!ごめんねごめんね!私くま大好きっメガヘル大好きっ手足短くても、そこがカワイイ~!!」



思わずムギュウっと抱きしめてモフっちゃいました。メガヘルは私の頭を撫でると、コンラート兄さんに右腕をビシっと向け、ノシノシ歩いてソファにどかっと座ります。

…あれはヘルゲ兄さんの動きだ…スゴイ、そっくり…


隣で同じ格好をして座っているヘルゲ兄さんは、端末をいじりながらフィーネ姉さんと話してるみたい。



『ヘルゲ、君の言いたいことも分かるがねぇ…格闘技をさせるならぬいぐるみではなく、パペットにした方がいいのではないかい?ヒトの関節に似たものの方がトレースの成果が出るではないか?』


「…格闘技だけを目的とはしていない。滑らかな動作とスピードの限界値が知りたいだけだ」


『…ふんふん…なるほどね…ああ、最終的にニコルにモフってもらえなければ意味がないというわけだね、理解した』


「…マナを読むな…」


『ということは、メガヘルに武器を持たせることを推奨するが?徒手空拳では魔法以外に全くコンラートがダメージを受けないよ』


「ふむ…刃物は良くないな、ニコルが危ない。棒術はどうだ?」


「棒術!棍でもいい?私、あれなら運動の中でも好きなの!私もメガヘルと組手したーい!」


『おお、それは好都合だ。ヘルゲ、ここはメガヘルに各種格闘術の型をトレースさせるというのはどうだい?ユッテやアルマたちも喜ぶよ、一人でも組手ができる』


「…その方向で行くか。おいコンラート、棍はできるか」


「一応な。一通りマスターしちゃいるけどよ、俺みたいなタイプはナイフとか暗器がメインだからな。期待すんなよ」



あっという間に話がまとまり、お昼を食べたら学舎へ行こうってことになりました。運動の授業で使っている棍や、訓練用の武器を借りるためです。借りるだけなら私とアロイス兄さんだけで行ってくるよ?って言ったんだけど、屋内訓練場も借りて組手をトレースさせるんだって。そっか、棍を家で振り回したら危ないもんね。



*****




学舎でアロイス兄さんが屋内訓練場の使用許可を取ったりしている間に、アルマたちを呼んで来ました。こんな面白いの、皆で見なきゃもったいないもんね!あれ、でもコンラート兄さんの相手って誰がやるのかな…



「おーい、ヘルゲ!お前プロテクター付けろよ!」


「いらん」


「くっそ、なめんなよォ?初期訓練以来か、お前と組手すんの。研究職で鈍ってんじゃねーのかァ?」


「俺の心配をするくらいなら、自分の防具を増やした方がいいぞ」



うあっは…ヘルゲ兄さんは端末操作するから組手やらないと思ってた…初めて見るなあ、ヘルゲ兄さんが闘うとこなんて…



「ねぇ、ヘルゲ兄さんて成績オールAよねぇ?私ヘルゲ兄さんが速く動くとこ見たことないかもぉ」


「そういや私も見たことない。オスカーは?」


「俺だってねーよ。つか、あの構えスキがねーな」


「…コンラート兄さんて強いんだよね?」


「おう、コン兄は動物的カンっつーか…トリッキーな動きもするから予測できねー時があるんだよ。でも棒術は初めて見る」



ヘルゲ兄さんはメガヘルにいろいろ指示を出してる。そこにアロイス兄さんがリア先生とナディヤ姉さんを連れてきた。



「いーいアトラクションじゃなーい!久々ね、あの二人がやるの」


「ほんとね、ヘルゲの相手ができるのってコンラートと…デニスくらいだったかしらね」


「軍部予定者しか相手にはならなかったね。僕なんていつもコテンパンだったし」



アハハ、とアロイス兄さんが笑う…え?ええ?アロイス兄さんがコテンパン?…けっこう運動神経いいよねぇ?

私たちが目を丸くしてると、それに気付いたアロイス兄さんが笑って答えてくれた。



「見てればわかる。型に沿ってやる組手じゃなくて、乱取りになった方がヘルゲの動きは少なくなるよ。ほら、始まった」




最初はゆっくり。上、中、上…上、中、差替えて上…私たちも習う基礎の連撃型から。だんだん速くなってく…掬受返し…体捌きをして一文字受、中段直突きキタ!受け流して大上段打で反撃…龍飛受で、中段突き!


ぷっは、少しは見えてると思うんだけど…


あれ…なんかものすごく速くなってきた…コンラート兄さんの連撃、すっごい…あれで「一応」マスターしてるっていう程度なの?調息したと思ったら、一気にヘルゲ兄さんを攻めていく。基本をマスターした人の、応用する動き。実戦て、あんなに怖いんだ…



で、ヘルゲ兄さんのあれは…なに?

ほんの少ししか動いていないように見える。棍は見えないほどひゅんひゅん回されているんだけど、あんなに縦横無尽に攻めているコンラート兄さんの棍を的確に弾いてるように見える。


よく棒術始めたばかりの子が棍を旋回させて、「これで無敵~」とかふざけてるけど、そんなんじゃなくて…


絶対あれ、目視してから反応してるのに。

ヘルゲ兄さんにはまったく棍がかすりもしない。



「…ンだよあれ!型とか関係ないじゃん、反射神経のカタマリってことかよ!?」


「はは、オスカーまだまだだねー。ちゃんと型は使ってるよ。ホラあれ、“怒涛”だ。頸脉けいみゃく斬落しっと。あー、残念。勝者ヘルゲー」



「くっそー!お前アレ捌くのかよ!普通あそこで小外刈まで躱せねぇだろ!?」


「俺は躱す」


「…だぁ~、疲れた…」




うっそーん…なんかメガヘルが今の動きをマネし始めたんだけど…再現できるのかなあ。というか、再現されても困るような…



「えぇ~と…あの、メガヘルって私たちの組手用なんだよね?あんなの要求されてもできないよ…」


「ああ、たぶん性能的に…最後の乱取りはトレースし切れていないだろうな。メガヘル、最後の2分間を再生」




メガヘルは少し戸惑ったみたいに首をかしげて…

子供用の短い棍をぶん、ぶん、ぶんぶんぶんぶん!と旋回して私たちの方を見ました。また首をかしげて…「やっぱりまちがってる?」みたいな…



「イヤァァァっかわいいぃぃっ!間違ってない、間違ってないよメガヘル!それでだいじょうぶだよぉぉぉ!」



私はあまりのかわいさに、メガヘルをモフってしまいました…






「ヘルゲ兄さーん、ナディヤ姉さんから差し入れだよ」


「おう」


「ナディヤったらマメよねぇ~、はちみつレモンて王道じゃないの…あ、コンラートにタオル渡してるわぁ…決まりね、これは中央の学舎で有名な“クラブのかわいいマネージャー”作戦ね」


「リア先生、ナニソレ」


「聞いたことない?中央の子供が通う学舎って規模が大きいから、いろんなスポーツやっててね。授業後にそのスポーツだけを好きでやってるクラブがあるのよ。そこの世話係みたいな女の子がね、ああやってかいがいしくすると…」


「なるほどね。堕ちる、と」



ユッテが親指をビシッと下に向けてる。ヤメテ…



「すでに堕ちてる二人だから関係ないんじゃなぁい~?あ、そういうプレ『アルマまでユッテみたいなこと言わないのぉぉぉ!』」



ハァ、ハァ…ギリギリでアルマの口を塞ぐのに成功しました。ほんとヤメテ恥ずかしいからぁ!!



あれ、珍しい…ヘルゲ兄さんがオスカーに近づいていく。



「オスカー」


「ん?なにヘルゲ兄」


「次にコンラートが下僕扱いしたら、これを見せてやればいい」


「へ?魔石?あ、映像が入って…ぶっふ!なんだコレ、あーっはっはっは!やべぇ超ウケる!ありがと、ヘルゲ兄!」


「おう、有効活用しろ」




みんなでナニナニ?って映像を見せてもらった。

…コンラート兄さんが水の柱の中ですっごい顔してもがいてる!?

テロップが画面の上に流れていく…

『コンラートのホルマリン漬け:メガヘルに敗北』





「「「ぶっは!!あーっはっはっはっはっは!!」」」


だめだ…これはおもしろい…おなか痛いおなか痛い!




アロイス兄さんとリア先生とヘルゲ兄さんはメガヘルの調整に熱中してて。コンラート兄さんとナディヤ姉さんはらぶらぶしてて。私たちはおなか抱えて爆笑してて…めっちゃ楽しい。みんなと一緒の、こんな休日って初めてだな。


なんだかヘルゲ兄さんが少し変わった気がする。


とってもいい方向に、何かが変化してる気がする。








  


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