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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
明の年、暗の年
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88 動作テスト sideアロイス





「そういやお前さ、軍に提出する“品質検査”はどうすることになったんだ?」



コンラートがヘルゲに聞いているのは、説得工作の成否に関わらず提出義務のある品質検査結果のことだ。今までは定期的に軍に出頭しては品質検査結果を出していたので、出頭を免除された現在はどうするのかってことだろう。



「ホデクから、夏冬の定期検査分だけでいいと言われたぞ。俺の希望があればいつでもマザーに接続してかまわないと言ってはいたがな」


「…で、どう答えたんだよ?」


「……“本当ですか?ですが、自分の養育システムに繋がってはいけないんですよね?”と答えた」


「…ホデクは?」


「“君の養育システムは本体へのコピーと移植準備に入るので接続できん。今稼働しているのは村の子供たちのためのシステムだから、今は接続を許可できんのだ”と言っていた」


「…で、どう答えたんだ?」


「“それは残念です…12年ぶりに接続できると思ったのですが”と答えた」


「…ホデク…ぶふっ…は?」


「“すまんが今は我慢してくれないか。君が望むものは分かっているつもりだ。中央に戻ってくる頃には、君のマザーに接続できるだろう”と言っていた」


「…で、どう答え、たんだ?…ぷふっ…」


「“わかりました。では特に頻繁に接続する意味もないかと思うので、半年に一度の検査結果を送信します”と答えた」


「ぶっは!!ダメだ、もう我慢できねえっ」



よせばいいのにコンラートはしつこく内容を聞き、ヘルゲのマザコン演技に大爆笑だ。ヘルゲは茶目っ気なのか、コンラートを罠に嵌めるためなのか、ニコルに指導された『しょぼんとしたヘルゲ』の顔面を忠実に再現しながら答えている。

…うん、100%罠だね。



まあ、僕も正直言えば爆笑したい。こんなに面白い見世物は滅多にないからね。でも目の前に、恐れもせず懲りもしないアホの子が罠にかかろうとしているのを見るとさ…僕はこんなアホじゃないと思いたくて、笑いの発作も控えめになろうってもんだよ。



「さて、コンラート…この観劇料は高いぞ?」



ヘルゲはそう言うなり、試作中の大型黒くま「メガヘル」をコンラートに向かわせた。メガヘルは背後から雷撃を纏わせた右ストレートを繰り出したが、コンラートは感電を恐れたのか大振りな動作でこれを躱す。



「へっ、雷でバチバチうるせーわ毛が逆立つわ、こんなの死角から狙うテとしちゃお粗末すぎだろうが」


「そうだな、まったくその通りだ」



コンラートが避けて立っている場所は予測されていたらしく、そこに一瞬でマナが渦巻いて円柱状の結界方陣が展開された。「げ!」と顔を引きつらせるコンラートに、なかなか見ることのできない優しい笑顔でヘルゲが言う。



「ところでこの中に水を満たすと、俺が10年世話になった養育用のチューブとそっくりになるぞ。お前も一度経験した方がいい」


「ふっざけんごぼあぁ!!」



うん、文句を言う前に方陣をマイナスベクトルで脆くするべきだったね。…あ、コンラートはマギ言語入れてないからできないか。うーん、でもスピード勝負で来られたら、僕でも一度は水に入っちゃうだろうな…やっぱり、爆笑しなくて正解だったなぁ。



「メガヘル、よくやった。あのホルマリン漬けを撮影したら魔法を解除していいぞ」



水が霧散し、方陣も解除される。一連の動作が完了すると、撮影した映像の入った魔石をヘルゲに渡す。身長120㎝のメガヘルは、ゼェハァ言っているコンラートに向かってファイティングポーズを極めた後、勝利を確信したのかソファにどっかり座った。


…短い足を組み、両手はアームレストに優雅に置いている。ヘルゲのいつものスタイルそのままだ。しかし、いかんせん手も短いので「ただの行儀の悪いくま」になっているのが悲しいね。



まあでも、ちゃんと部屋を水浸しにしない程度の仕掛けはしてあったんだね。結界だけ解除してたら、ヘルゲもコンラートも氷漬けにして鮮度抜群のままディルクさんの魚屋に納品してたトコだ。



「お…お前、ヒデェぞ…」


「メガヘルを見くびるからだ」


「知るかっ! そいつが稼働してんの見るのは初めてだよ俺ァ!!」


「コンラートも懲りないねぇ~、ヘルゲは僕より直接的に攻撃してくるのはわかってるのにさぁ」


「お前もヒデェぞ、アロイス!何を優雅に茶ァ飲みながら観戦してんだ、助けろよ!」


「えぇ~、完全に自業自得だったよね?」


「お前そうやってクマの性能観察して、自分に来た時にどう対応しようかシミュレーションしてただろ!」



おや、コンラートが鋭い。



「まあねぇ、でもまだメガヘルの手の内全部見てないからなー。コンラート、もう一回罠に嵌ってみてよ」


「だ・か・ら! お前ら俺で実験しようとすんなよ!」



プリプリしていたコンラートは、怒り疲れたのか生活魔法で服と床を乾かした。それにしてもなかなかの動きだったな、メガヘル。



「ヘルゲ、それフィーの方陣の改良版かい?」


「ああ、どこまで動きが滑らかになるかと思ってな。俺の動きをトレースさせてみたんだが、まだパターンが足りない。魔法は入れられても、動作となるとサンプルが限られるものだな」


「…まさか僕らのパターンも入れるつもり?」


「コンラートが訓練で格闘技の型をやっている時のはもう入れた。…アロイス、お前家で包丁を持つこと以外をしないのか」


「は?料理だけじゃなくて、いろいろ家事やってるじゃないか」


「…お前をトレースさせた後、包丁を持ってじっと見つめてるだけになったぞ」



…失礼な…

コンラートがまた爆笑してる。後でディルクさんに一匹納品しなくちゃ。



「それ、タイミングが悪かっただけだろ…もしかして料理作ってるとこトレースさせたら、料理できるようになるのか?」


「そこまでできるわけないだろう。第一こいつが食材を切ったら毛だらけになるんじゃないのか」


「おぅふ…そりゃ食いたくねぇな…」


「えー、それじゃ家事なんてトレースさせても意味ないよ、水を使うことばっかりだし。コンラートとヘルゲだけでいいじゃないか」


「問題がある」


「何の?」


「このままだと戦闘用くまになる」


「こいつで動作の滑らかさを試すだけだろ?いいじゃねーか」


「…ニコルにやれなくなる」


「「えー…あげるつもりだったのかよ…」」



フィーネに相談しよう、とヘルゲはブツブツ言って考え込み始めた。さっきのコンラートを嵌める思考回路や動きを見る限り、既にメガヘルは戦闘用と言っていい気がするんだけどな…魔法がなければノーダメージだけど。


なんだかヘルゲの方向性がおかしくなってる気がするのは気のせいでしょうか。





  

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