84 白縹の村、再訪 sideコンラート
はぁ~、やっぱ村はイイ。
ヘドロのお守りを一か月やってた間、ナディヤとは必要最低限の接触しかしなかった。ニコルちゃんのことで用件があるっつう明確な用事が無い限りは、夜にミニコンで通信するだけ。申し訳ないと思ったが、賢者サマからの忠告どおりに正直に話して協力を頼むことにした。
「悪ィ、ナディヤ。俺が裏方の仕事してるって、この前話しただろ?その裏方での上司の面倒を、しばらく村で見なきゃなんねぇ。…お前のことが知られると、今後どうしてもお前が俺の弱点と認識されかねねぇんだ。俺がただのヴァイスなら、こんな隠すようなことをしねーで済んだんだけどよ…」
「ううん、話してくれてうれしい。そんなことで遠慮なんてしなくていいのよ、コンラート。思うとおりにして。ちゃーんとご期待に応えて『女優』になっちゃうわよ?こういうのも、ドキドキしていいわね!」
「…えー…そんな感じ?」
「ええ、楽しんだ方がお得よ?ふふ…」
「はは、ほんとツエーな、俺の彼女は」
ま、ノロケが入ってるのは勘弁してほしいが、こんな感じで一か月ガマンの子だった。だが、ヘドロが帰ってからは天国!ああもうこの世のパラディーソってなもんだ。
ナディヤに手料理を食わせてもらうため、キッチン付きで広めのアパルトメントを経費で借りましたとも。ヘドロにはシュヴァルツのホコリのもとに、紅玉の近くの物件がココしかなかったんで借りちゃいましたサーセン!って押し切りましたとも。
そんでヘドロが帰ってからは、監視方陣対策をしながらナディヤに来てもらって一緒にメシ。味も景色もサイコーです。
でも、フィーネから貰ったというスゲェ包丁の切れ味にうっとりするのはやめてほしい。ギラリと光る刃物をうっとり眺める美女っつうのは、けっこう迫力あるから…
そういやアロイスにも同じ店の包丁を買ってきてくれって頼まれてよ…完全にナディヤとお揃いっつうのも悔しかったんで、肉切包丁と菜切包丁の二本買ってってやった。
そしたらアロイスに抱き付かれた。
キモチワリくて叫んじまった。
ちなみにあいつらん家に行くと、アロイスが包丁に反射した光を顔面に浴びながら「芸術品だよねコレ…」とか言ってうっとりしてるトコが見られる。あの包丁は何か呪いでもかかってんじゃねぇのか。
*****
ヴァイスで例のマツリも落ち着いて、これから俺が長期で村へ任務滞在するっつう連絡がバル爺に行った時。俺はあの怪物夫婦を前にして冷や汗ダラダラかくはめになった。
「…おめぇ、ヘルゲを説得して連れ戻すって?」
「うっす」
「あの坊主、説得されてくれるタマなのかい?私はそうは思わないけどねぇ?」
「いやー、俺もホデク隊長からの命令っスからね…」
「ふん…てこたぁ…ヘルゲが戻りたいから、おめぇを迎えに寄越させたな?」
「うえ!?いや…んなワケねーでしょ…」
「あっはっは、やるねえあの坊主!あー、そしたらこないだのハイデマリーからの件もヘルゲ絡みだね?その中等の娘、ヘルゲに懐いてる上に宝玉級だそうじゃないか」
「ちょ…もー、参ったなエレオノーラさん…勘弁してくださいよ…」
「はいよ、まあいいってこった。アンタもよくあの腹黒を手玉にとったじゃないのさ、見直したよ。…この件をヴァイスは何も知らない。そもそも中等の娘っ子に関して、私らは何もしちゃいないんだからね」
「はぁ…」
「かっかっか!!俺もなんも知らねえぜぇ?…なぁ、コンラートよぉ。お前があの臭ェ場所で踏ん張っててくれてるおかげでよ、後輩どもは今のところお前と同じヒデェ目に合わずに済んでる。お前がやられたことについては…俺らも知るのが遅くてよ…助けてやれなくて、真面目にすまねぇと思ってんだ。だからよ、誓え。おめぇは『ヴァイス』だ。ヴァイスの誇りにかけて、俺らの力が必要だと思ったら…この俺に『マツリが始まる』と連絡することを、誓え」
…くっそ。俺は泣かねーぞ、この酔いどれジジイ。
「…うっす」
「よーし、んじゃ話はついたね!気を付けていっといで。ついでに皆の御用聞きでもして、村に手紙の配達してやんな。それでこないだのマツリの件はチャラだよ」
「ぶっ…タダじゃ転ばねーな、エレオノーラさん」
「当たり前さね、”無料のイイ女”なんざいないんだからね!アンタも可愛い彼女に愛想つかされないよう、せいぜいがんばんな!」
「うげっなんで知ってんのっ!?」
ニヤッと笑う怪物極悪夫婦はヒラヒラと手を振り、俺は大佐の執務室を追い出された。
…あの二人に知られていても、たぶん計画に支障はねえ。それどころか、必要とあらばヴァイス総勢400人を動かせる可能性が出てきた…だけど…だけどよ。俺に兄弟たちの命を張らせる決断ができるか?あの爺と婆に、それをやってくれって…俺は言えるのか?
「はあ…こりゃあれだ。”一人で悩むな、仲間を頼れ”ってやつだ…ひとまず賢者にでも話しておくか…」
そうして俺は、山ほどの手紙や小荷物…ついでにヘドロを持って、村に帰ることになった。
*****
ニコルちゃんたちが軍部配置予定者になったってのは、アロイスから聞いた。予測通りっちゃそれまでなんだけどよ、あの三人娘にオスカーまで軍部とはな。ニコルちゃんはやっぱし不安定っつーか、少し意地を張って平気なフリを頑張っちまってるように見える。
ま、ヘルゲがかなりケアしてやれてるようだから、今のところはいいけどよ。ナディヤも心配してんだよなァ…ニコルちゃんがそのうち「折れちゃうような」気がするって言ってる。ナディヤのそういう勘は侮れない。
アロイスのやつも、少し煮詰まってる感じがする。これ、ヘルゲがいなくなったらどうなるかこえーぞ。なんとか対策考えてから、ヘルゲを中央に戻したいもんだ…ちっとあいつらの様子見にいくかァ。
「いよぅ、お前ら全員俺の後輩だってな?コキ使ってやっから、はよ来い」
「コン兄の使いっ走りにならねぇように、日々訓練中だよ!」
「ほぉーん、オスカー…聞いたぜぇ~?お前色ボケしてたってぇ?お前がヴァイス全員の使いっ走りになる日も近ェな?」
「うぐ!くっそぉぉぉ、誰だコン兄にバラしたのぉぉ!」
「はぁ~い、私だよぉ。すぐケンカ買っちゃう誰かさんに、お仕置き?みたいな」
「諦めな、オスカー…私だってこの前アルマに『ユッテもケンカばっかりしない!敵は選んで作るべし!はーい、激痛★リンパマッサージの時間だよぉ~』ってやられたんだよ…私の方が力はあるはずなのに…アルマに関節キメられると絶対抜けらんないんだよ…」
「…アルマ、お前なかなか有望だな…」
「コンラート兄さんもリンパ、やる?お肌ぴかぴかになるよぉ?」
「俺は遠慮しとく…ヘルゲにでもカマして、あの美顔ゴーレムの顔を発光させてやりゃいいじゃねーか」
「うきゃはは!ヘルゲ兄さん、パズルもらってからすぐ夜更かしするからねぇ、リンパいいかも~」
「コンラート兄さんもニコルも、怖いこと言わないの~!ヘルゲ兄さんに攻撃加えていいのは二日以上貫徹で朦朧としてる時だけなのよぅ!」
「へ?何でだ?アロ兄じゃないんだから、お前らに仕返しなんてしないだろ?」
「甘いわ、オスカー。ヘルゲ兄さんには得体の知れない変態魔法があるの、敵に回しちゃいけない人第二位よぉ」
「第一位は?」
「当たり前じゃん、アロ兄に決まってる…」
「「「ああ、うん…」」」
「なぁ、そういう話してると大抵近くにいねぇか、あいつ?」
「「「「ヒッ!」」」」
「…冗談だって、さっき高等学舎の修練準備に行くっつーて歩いてったの見たからよ」
「ふぐぅ…コンラート兄さん、びっくりしたから甘いもの食べたいですっ」
「はぁ?」
「私もぉ~、驚きすぎて糖分が足りないぃ~」
「はいぃ?」
「コン兄、びっくりしすぎて午後の授業のエネルギーが不足してる!」
「…ち、わぁーったよ!ホレ来い、食堂のデザートでいいんだろ?」
「「「「やったぁ~!」」」」
「オスカー、男は黙って塩舐めてろ!」
「ひでぇっ なんで俺だけー!」
「うっせぇ下っ端!」
うん、こいつら大丈夫そうだ。
ま、ニコルちゃんはあいつらに相談しつつってトコかな。
…これだけ味方がいるんだ、なんとでもなるだろ。