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Three Gem - 結晶の景色 -  作者: 赤月はる
明の年、暗の年
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82 緩やかで大きな変化 sideアロイス

  



ニコルたちは中等5年に進級した。

散々進路について迷っていたのも虚しく、予測どおりニコルは5月下旬の品質検査の結果「軍部配置予定者」に内定してしまった。本人もかなり落ち込んでいたものの、一か月ほど経った現在では諦め半分といった心境で、それでも明るく振る舞ってはいた。


救いなのはユッテもアルマもオスカーも軍部配置予定者に内定したことで、この4人全員が軍部なのか!?と皆大笑いしていたことだった。意外なのはやはりアルマで、周囲は維持セクトあたりが妥当だろうと感じていたからだった。

しかし当の本人はそう意外でもなかった様子だ。



「ん~、私は結構納得かなぁ~。体力自慢ではないけど、私って腹黒だしぃ~。自分が『敵は滅せよ』っていう精神性だっていうのはわかってたからぁ」



…これには失礼ながら僕も納得してしまった…

ユッテとオスカーは元々体を動かすのが得意な上に、魔法出力も申し分なかった。到達度もユッテはブルートルマリン、オスカーはイエロートルマリンの到達認定が有力視されていて、同じ種類の宝石だねとアルマにニヤニヤされていた。ちなみにアルマはアメジストの有力候補だ。三人とも軍部配置予定者として、特に不安感のない成績と資質だった。



ニコルはとうに自分の資質について思い悩むことをやめていて、黙々と修練したり、収束の課題をクリアできるように練習している。

しかし、おじいちゃんに「収束」について相談しても「いつかわかる」と決まり文句で返ってくるらしく、たまに癇癪を起すようになった。それも当然だろうと思う。いくら練習しても手から零れるマナの感覚は変わらず、自分の中にあると思われる「収束が苦手な理由」のヒントも得られずでは、フラストレーションも溜まるというものだ。

癇癪といっても可愛いものなのだけど、今までニコルを見ていた僕らからすれば相当悔しい思いをしているのがよくわかった。


ただ一人、ヘルゲだけはそんなニコルに戸惑うことがなかった。今までは森以外に現れることのなかったヘルゲが、ふらりと学舎の食堂に来てニコルを連れて行くことが数度あった。そんな日は森に限らず、海岸でぼんやりさせたり、海側の緩斜面で寝転んでいたりとニコルをリフレッシュさせている。

戻ってくるとニコルはすっかり元の調子を取り戻していて、「よーっし、まだ頑張れるっ」と元気いっぱいになっていたりする。


ヘルゲに「すごいなアレ、どうやってるんだ?」と聞いても、「特に何もしていない。連れまわしてぼんやりしてるだけだな」と返ってくる。第一、なんでニコルの機嫌が悪くなっているのを察知するのか、そこからして僕にはわからない。無理やり推測するなら、「海持ち同士で通じる何かがあるのかな?」という程度だ。




僕は僕で、ヘルゲのようにおじいちゃんと話すなんてことができない代わりに資料を漁っている。過去に収束が不得意だった生徒の記録を見てみたり、図書館にある魔法関連の資料を片っ端から読んだり。

しかし収束が苦手な生徒は、たいていマナの錬成からして不得意だったりする。集中力に欠けていて、錬成したマナを維持できずに散らせてしまうといった事例も多かった。どれもこれもニコルに当てはまらず、とうとうコンラートに「煮詰まりすぎだ、そんなんじゃニコルちゃんが気にするぜ」と言われる始末だった。


有力な手がかりは何も得られず、少し苦しい時期になったなと感じていた。





*****




ヘルゲをコンラートが連れ戻す、というホデクさんとやらの作戦が始まり、コンラートは4月頃に「派遣」されてきた。僕らの家の近くにアパルトメントを借り、毎日精力的に動いている。


彼の表向きの派遣理由は「ホデク隊長の護衛兼村の治安維持」だ。ホデク隊長は白縹の村に長期滞在する唯一の他部族ということで異様に目立った。本人もそこは自覚していたようで、マザーと宿の往復くらいしかしていなかった。「白縹のマザーを精査し、部族理解を深めて今後の軍部運営に役立てるため」という回りくどい理由をつけてマザーの資料部屋にほとんど籠っていた。


やはり一番やっかいな人物が身近にいるということで多少緊張したが、本人は村の住人に聞き取り調査をするような事はハナから考えていなかったらしい。多少噂を聞いても「ヘルゲは家に籠りっきりだ」とか「アロイスが料理上手だから、昼にバールに出てくる程度だ」とか「ニコルを可愛がっている」といった話しか聞けていなかったみたいだ。



「フン、だからあいつはアホなんだ。本気出すなら足で探せってんだよなァ。答えはそこらじゅうにあるってのに、自分で動こうとはしねぇんだよ。」



いや…白縹のマザーまで足を運んでるんだから、彼なりに本気なんじゃないの?と思うんだけどね…確かに、僕らが誘導したとはいえ見当違いの努力ではある。


ホデク隊長はさすがにヘルゲを説得するまでずっと滞在をしているわけにもいかず、1か月ほどで中央へ戻っていった。



この頃にはコンラートを残す理由は「村の治安維持に努めつつ、紅玉の説得を任せる」と、ほぼ本音丸出しになっていた。ホデク隊長が白縹のマザーでヘルゲの養育記録を漁って出た感想は「…およそ人間の子供を育てているとは思えん。マザーは完全に育児に向いていないし、あれで通常の感性の人間が育つとも思えん。…紅玉は、あれでもまともな部類なのかもな」と、なんとも言えないものだったらしい。


人間としての感覚なら、当然の感想かもしれない。でも僕らから見れば、ヘルゲを見くびってんじゃないぞとイライラする内容でもある。


ともあれ、「ヘルゲがああなのは当然なのだ」と納得したホデク隊長は、コンラートに「多少時間がかかってもかまわん、後は頼むぞ」と言って村を去った。定期的に軍部へ顔出しをしていたヘルゲも、コンラートの説得に障るからと、出頭を免除されてごきげんだ。

ちなみにホデク隊長はヘルゲを中央へ誘致するにあたり、「君が望むなら、中央のマザー本体に白縹のマザー人格を一部移植する許可を得た。そこも考慮に入れてくれたまえ」とのたまったという。中央で忙しく動き回っていたのは「白縹と本体どっちのマザーがいいかを選択させる」のではなく「最初から本体一択にさせる」布石だったらしい。まあ、僕らには都合いい話だね。




こんな感じで、再びコンラートを迎えた僕らの家は、また賑やかになった。まあ、なんでわざわざアパルトメントを借りたかなんてわかってるけど、ナディヤもすごく幸せそうだし正解だろうね。


彼らが今後どういう付き合いをするつもりかはまだわからないけれど。たぶん後一年は猶予があるだろうとヘルゲは見ているから、焦らないでじっくり考えてくれるといいな、なんて余計な心配をしている。




僕らはそうやって、未だ色々な事柄について手探りしながら進んでいるところだ。






  

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