81 閑話 アルマとユッテ 2
「アンタ…あれはないでしょうよ」
「そうよぉ…いくらオスカーも軍部向きの能力値で、一緒の進路になれそうだって浮かれてたとしてもねぇ?」
「いや…そんなつもりじゃなくてよ…だってアイツ、魔法出力が全然足りねーじゃんか…そんなんで大丈夫かなって…」
「配置予定者の決定が生徒にどうこうできるはずないじゃなーい…大丈夫?って聞かれて、頷ける人がいるぅ?」
「う…」
「ニコルだって好きで収束が苦手なんじゃないってのは、アンタもわかってんでしょ?ニコルがどんだけ努力して収束の練習してるかも、知ってるじゃん?」
「ほーんと、今回はウッカリじゃ済まないなぁ~、大幅減点ね~」
「悪ぃ…ちっと考えなしだった…」
「ちっとじゃないよ、すっげー考えなしだよ!」
「おまけに思いやりもナシだったねぇ」
「ほんとだよ、勢いで何でも口に出すからだっつの」
「ニコルにも当然謝るよねぇ?」
「後で…ちゃんと謝る…」
「ま、仕方ないねー。こんくらいで勘弁してあげっから、フォローしっかりしなよ?」
「おう…」
*****
「あ、アロ兄~!ちょっと今いい?」
「ああ、かまわないよ。どうしたの二人して、何か相談?」
「ん~ん、報告かなぁ~」
「報告?」
「そそ、オスカーのことなんだけどね。私らでガッツリボッキリ締め上げといたから、アロ兄のお仕置きは必要ないよって言いにきただけ」
「げほっ …もしかして軍部配置予定云々って話?」
「それでぇーす。私たちも結構加減ナシの理詰めで、穿つ攻撃を浴びせちゃったんでぇ…たぶんアロイス兄さんのお仕置きを軽~く受けただけで致死量超えるからぁ~」
「うわぁ…そ、そうなの?確かにオスカーやっちゃってくれたなって思ってはいたけど…それじゃオスカーが大丈夫じゃないんじゃ…ぺしゃんこなんじゃないの?」
「あー、アイツこれくらいじゃ死なないからヘーキ。謎の回復力で、奇跡の生還果たしちゃうタイプだから」
「そうなのよねぇ、だいぶ脳筋気味っていうか。そのくせ、割と繊細にニコルに対応するから評価上げてたのにねぇ。今回は大幅減点よって、死の警告しといたからぁ~」
「そ…そう。わかったよ、でもあんまりやりすぎないでね?」
「「はぁ~い」」
「…最近僕の周りって、暴走気味な人多くない?僕完全に抑え役じゃない?ほんとにお母さんなのかな僕…」
「アロ兄、悩みすぎるとハゲっから。適当なトコで思考放棄すんのも大事だし」
「イヤな予言しないでくれよ…」
「じゃあそういうコトなんでぇ、よろしく~」
「はいはい…」
*****
「ナディヤ姉さ~ん!」
「あら、アルマもユッテも…どうしたの?今日はニコルが一緒じゃないのね?」
「うん、ニコルはいまリア先生のトコに質問しに行ってる~」
「あのさ、ナディヤ姉…クッキー作りたいんだけど…教えてくんない?」
「クッキー?いいわよ、簡単なのでいいならすぐできるし…今作りたいの?」
「うん、ニコルと三人で食べたいの~」
「ニコル、クッキー好きだし。アロ兄のお菓子には敵わないけどさ」
「…ふふ、わかったわ。じゃあとっておきの簡単でおいしい作り方があるから、教えてあげる。二人が作ってくれたクッキーなら、アロイスのお菓子にだって負けないわよ?絶対ニコル、元気いっぱいになっちゃうわね」
「 ! そうかな?負けない?」
「私が保証するわ、ぜーったい負けないわよ?」
「じゃあいっぱい作ろうよぉ、ユッテ~」
「よっしゃ!やるかぁ!」
「二人ともいい子ね、ほんと可愛いんだから…」
*****
「ほあぁ…おいしいぃ…」
「でっしょー?ナディヤ姉さん直伝よぉ、たくさん食べてニコル~」
「さっくさく…バターがたっぷり…」
「ふふーん、どうよニコル。私らもやれば出来んのよ」
「すごいよユッテ、アルマ…尊敬しちゃう…私も一緒に作りたかったなぁ~」
「簡単だったから、次は一緒に作ろうよぉ。焼きたてもおいしいよね、ユッテ!」
「あー、でも気を付けないと舌ヤケドするけどね…口ン中で『ジュッ』って音が聞こえて痛いのなんのって…」
「えー、大丈夫なのユッテ!?もう痛くないの??」
「たまたま治癒師の先生が食堂にいてさ、爆笑しながら治してくれたから大丈夫…恥ずかしかった…」
「あははー、そうそう!『アホの子がいるわぁ~』って言いながら治してくれて、でも頭撫でてもらってたんだよねぇ、ユッテ」
「ちぇ…ヘルミーネ先生には走り回ってケガするたんびに治してもらってたからさあ…頭あがんないのよね…」
「そういえばユッテって治癒室の常連だったもんね~。でも最近はそんなに行かないでしょ?」
「そりゃ初等の頃みたいにしょっちゅうスッ転ばないって。でもホラ、初等の頃の恥は全部知られてるっつーか…」
「…あぁ…私がアロイス兄さんに頭上がらないのと同じかぁ…」
「それと比べるのもどうかと思うなァ、私…」
「わふん、わふん」
「フィー?誰か来たの?」
「ごめんなさいね、ちょっといい?」
「あれっナディヤ姉さん!」
「…ナイショよ、これおいしい紅茶貰ったからおすそ分け」
「わぁ~、いい匂い!ありがとぉ~」
「…ふふ、上手に作れたユッテとアルマにご褒美。そのクッキーにも合うと思うわ。ニコル、次は一緒に作りましょ?それ、とてもおいしいでしょう?」
「うん!おいしくって元気出るう!すっごい幸せぇ~」
「ふふん、当然だし…」
「あは、よかったァ」
「…ふふ…」