8 小さな光 sideヘルゲ
アロイスがニコルと話している。
やはりコミュニケーションスキルが違うんだな、脱帽だ。
ニコルのたどたどしい説明を、アロイスは何も知らないのに辛抱強く、でも優しく聞いていく。
「んーと、『くらい火』と『ひかる水』って言ってたかな…おじいちゃんの言うことってたまにむずかしくて、少ししかわかんない」
「??そうなんだ?僕もよくわかんないな…」
ニコルが一生懸命説明しようとしているが、さすがにアロイスが困惑している。
ああ、あの小さな光がニコルを導いてるんだろうが、最初はわからないよな、「真の望み」の言うことなど。
俺は相当初期から真の望みと同化しているが、自然のままだと何かからのふわふわした啓示にしか思えないんだろう。
対人コミュニケーション担当、行け。少し誘導してやった方がいい。
「…くらい火とひかる水…を、ニコルは、どうしたいんだ?」
「わたしはね、水にいっぱいもらって、火を…つつむ?とかなおす?んだって」
納得、した。
俺はがむしゃらに俺自身をマザーから守るために真の望みと同化せざるを得なかった。
俺の中で、俺のためだけに力を蓄えていた。
だがこの子は。
自然の海を持つこの子は、他者から受け入れて、他者に与えるんだな。
俺とはなんて違うんだろう。
調和していて、俺のような歪みがまったくない。
「…そうか。ニコルは、すごいな」
「えへへ、そっかなぁー?でもヘルゲお兄ちゃんもすごいね、わたしを助けてくれたまほう、ふわふわういたもんね!空とべるかなぁ~」
魔法担当がざくっと計算すると、約3分、高度10m程度の低速飛行として、高度維持に出力24400。力技でいけそうだ。体制維持のための結界方陣は、方陣の移動がネックだ。断続的に出す瞬発力がマナを喰うので出力45900、移動のための風魔法はそんなに消費もないが…まあ、俺のマナ循環量と錬成速度では、安全マージンなどとてもとれない。却下だな。
「無理だ」
「そっかー、ざんねん…」
そんなにしょぼんとするな。かわいそうに。俺が守ってやるから。
「浮くか?」
「…こんどはズボンはいてるときがいいな…ちょっとさっき、はずかしかった…」
ああ、あれはな…確かに無様な格好だった。
落下時は頭の方が重いから、どうしてもな。
そうか、でも恥ずかしい思いをさせてしまったか。
俺のせいでニコルが…
「…すまん」
俺は今日、感謝と謝罪の本当の意味を手に入れたと思う。
対人コミュニケーション担当、これからお前には、ニコルに関して相当努力してもらわねばならない。頼んだぞ。
シスコン発症