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79 進路の不安 sideアロイス

  




冬休みが終わり、まだ休みボケの治らないような顔で修練する子もチラホラいる。ま、仕方ないよね。数日は見逃してあげるから、さっさと切り替えようね。

ニコルも、元気だ。でも今日は…「品質検査」の細かい情報が、改めて生徒自身に開示される。宝玉級になった、ということは僕から積極的に話してはいないけども…ニコルが自覚した時に、自分の進路が軍へ一直線になりつつあることに気付くだろうか。それとも、まだ決まったわけではないと思うだろうか。

あんなに自分のやりたいことを真剣に悩んでいたのに、それが無駄になったと…落ち込むのだろうか。




「アロイス、少し時間あるかしら?」


「いいですよ。どうかしました?」



ハンナ先生はキョロキョロっと周囲を見回すと、僕に向かってニィッと口角を上げた。



「…例の件、ヴァイスがうまくやってくれたって」


「え、もう!?ほんとですかっ?…どうやって?」


「んー、それが詳しくは教えてくれなかったんだけど…同期のハイデマリーに頼んだら、あっという間だったというか…」


「でも、山吹はニコルを諦めてくれたってことで、いいんですよ…ね?」


「あ、それは間違いないみたいよ。というか、山吹が今後白縹自体を利用しようと思わないだろうってくらいには『カマしてやった』って言ってて…はぁ、何やったのかしらね…」



…この短期間で、大国の主要7部族のうちの一つを黙らせた?いや、そりゃ黙ってもらわなきゃ困るわけだけど、それにしても早すぎないかな…


コンラートぉ?フィーネぇ?


まさかマツッてHANABIッてドンドンパンパン大規模魔法ヒャッハーでアレな感じにしたとかじゃないよねぇ…?




「…なんか寒いわね… アロイス?なんか顔色悪いけど、ニコルはとにかく中央に連れていかれたりしないわよ、安心して?」


「…あ!ありがとうございました!ほんとに助かりました」


「私は何もしてないわよ!さ、それじゃ仕事片付けちゃいましょ!」


「はい」



…帰ったらコンラートとフィーネに連絡しよう。



*****




昼に森へ行くと、ニコルが開口一番に大問題を投げかけてきた。



「アロイス兄さん、なんか私…宝玉級とかになってて…何でだかわかんないんだけど…」


「あ、ようやく気付いたか…」


「う。アロイス兄さん、品質検査の時には気付いてた?」


「うん。ま、でも宝玉の認定・・じゃないからね。素養アリっていう結果が出たってことでしょ」


「でもオスカーが、『じゃあお前って軍部の配置予定者に決まったようなモンじゃねーの、魔法ヘタクソで大丈夫なのかよ?』って言うから…」



オォスカァァァァァ!!!



「…んー、予定者には…確かになっちゃうかもしれないけど。ま、『予定者』だからねぇ?」


「でも、高等学舎でのカリキュラムに変化があるんでしょ?」


「少しだけね。ヘルゲはそれこそ軍部以外ありえないっていう状態で、僕は養育セクト予定者で…でもほとんどの授業は一緒だったよ?」


「ねえ、養育セクト予定者ってどんな素養があるとなれる?維持セクトでもいいけど」


「どんなって言っても…いろいろ過ぎてわかんないよ。僕が教導師になれた一番の理由は『他者の心情・状態を俯瞰できる素養がある』っていう診断だったかな。要するに性格上の問題だったから…そんなの人それぞれでしょ?」



ま、要するに僕は「他者を一歩離れた場所から観察できる」っていう「冷血漢」的なありがたーい診断を喰らったわけで…けっこう落ち込んだんだよな、あの診断…



「それはそうだけど…例えば私の性格を見たら養育セクト向きだったとして、それでも軍部の予定者にされちゃう?」



…痛いトコ突いてきたな。正直に答えるべきか、「そんなことは僕たちがさせない」という思いだけでごまかしていいものか。言い淀んでいると、ヘルゲが来た。



「おう。…何か話してたか」


「ヘルゲ兄さん…軍って…怖い?」



ヘルゲもいきなり聞かれて驚いてる…でもニコルってやっぱり「軍=怖い」っていう感覚なんだな。そりゃそうだ、この村は「生体兵器牧場」だって全員が知ってるけど、それでも怖いものは怖い。



「別に軍自体は怖くはない。ただの仕事場だ。どうした?」


「…私が宝玉級になってて、そしたら軍部の配置予定者に決まりなんじゃないかって聞いて…」



ヘルゲが僕を見てくる。…僕が言ったんじゃないってば、オスカーだってば。でもオスカーだって言っちゃうと、オスカー死んじゃう。



「…そういう話を、学舎で聞いたらしいよ。ニコルは養育セクトか維持セクトに行って仕事したいと思ってたからね、どうしたらいいか不安になってるのさ」


「そういうことか。まあ、軍部自体はさっき言ったようにただの仕事場だ。お前はコンラートやフィーネがいる場所が怖いと思うか?」


「…全然思わない…」


「たぶん俺も軍に戻るぞ。俺がいても、怖いか?」


「…全然、怖くない…」


「じゃあ、何とかなるんじゃないか?」


「…そっか…」



ヘルゲ流の問答で、先入観からだけの恐怖心は薄れたみたいだけど。でも、根本的にニコルは戦争で血気盛んに魔法を行使できるような性格じゃない。自分が苦手な魔法を要求されることになるのだと感じて、不安で仕方ないのも変わらない。



「…ニコル、さっきの質問だけれどね。答えは『たぶん、軍部の配置予定者になるだろうね』だ。何でかと言うと、マザーや中枢の人たちは宝玉に対して”兵器”として絶大な期待と信頼を持っているからだ。それはヘルゲを見ててもわかるだろ?宝玉の力って、ほんとにそれほど大きいんだよ。それでね、ニコルはまだ宝玉の認定は受けていない。だけど14歳で宝玉級になったっていうだけで、期待度がすごいんだ。だから、マザーや中枢が判断を誤って・・・・・・ニコルを軍部予定者にする確率は高い、と僕は思うんだ」



ニコルは、怯えるでもなく不安そうにでもなく、じっと僕を澄んだ緑色の瞳で見つめている。



「でね、その誤った判断を覆すにはどうしたらいいかってことだと思うんだよね。まず僕は、ニコルがマナを収束するのが苦手な理由を、なんとしても突き止めようと思ってる。手がかりもないし、正直言えば答えはニコルの中に眠ってると思うから、僕が外部から正解に辿りつける可能性は低いと思うけど。でも、ニコルが正解を探す手助けくらいはできる。それで、もしもだよ?大規模魔法が撃てるようになったとしたら…その時は、ニコルも軍部に行くのを認めざるを得ないんじゃないかと思うんだ。だって、攻撃魔法を撃つことを、心が認めてるんだからね。ここまではいい?」



ニコルはコックリと頷いた。



「じゃあ、もしもずっと大規模魔法が撃てるようにならなかったら。これは、ニコルの心が絶対拒否してるとしか思えないよね。その場合、ニコルにはもっと違う魔法素養が眠っているかもしれない。開花が遅いとは思うけど、ユニークの可能性だって、ある。それがまったくの戦闘向きではないって、マザーと中枢が認めたら…軍部からは当然外されると思うんだけどな…甘いと思う?」


「…もっと…違う、魔法…」



…? なんかニコル、瞳が光って…ダイブしかかってないか?



「ニコル?」


「…アロイス、ちょっと待て」



ヘルゲはそう言うと、いきなり大木の幹に手を付き、反対の手でニコルに触れた。…おじいちゃんに接触しに行ったのか?



「…ん…」


「戻ったか」


「…あ!ごめん…ちょっと引っ張られた…」


「俺たちがいるところでなら、かまわん」



ああ、やっぱり…何がキーワードだった?…あ、”もっと違う魔法素養”か?うーん…これを突き詰めるべきか、逆に触れないようにすべきか…帰ったらヘルゲと相談しよう。



「…ん、でもなんかスッキリしたかも。ありがとう、アロイス兄さん、ヘルゲ兄さん。まだ起こっていない何かに怯えても、仕方ないね」



にこっと笑うニコル。

この子は一時期のぎこちない笑顔ではなく、自然な「心を隠す」笑顔を身に付けた。どんどん大人になっていくけれど、まだ危うくて。もう少しの間だけ、僕らを頼ったままでいてくれたらいいな…そうしたら、今まで通り頑張れるから。



ヘルゲがニコルを撫でる。僕もニコルのほっぺたを手の甲で撫でる。





あ、忘れちゃいけない。

…オスカー、この借りは返すからね…





  

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