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76 ヴァイスのマツリ sideコンラート

  





「ははっそりゃ楽しそうだなァ、俺も参加したかったー!」


『ふふ、私もコンラートがいなくてすごく残念だった…。でもアロイスって何でも作れちゃうのね、あのケーキびっくりしたわ…それにすごい量の料理やお菓子を次々作っては出してくるのに、動く物音があまりしないの。バトラーってああいう感じの動きだと思う…』


「うーん、あんまりアロイス褒めると俺がもれなく妬くからやめれ。しっかしフィーネも加減知らずだなァ。すげえデッカイ木箱が届いて驚いたってアロイス言ってたぜ?」


『そうなの。なんか工具使わないと蓋が開かなくって…ほぼコンテナって感じで。ほんと、フィーネがこんな風になったの初めてかもしれないわ』


「あ、それがよお…俺まで『君にも最大限の感謝を』とか言いながらコレくれてよ」



いま着ている薄手のコートを指さす。



「なんか方陣仕込んであってナイフの刃くらいなら防御するし、内側に暗器仕込んだりするポケットが山ほどついてんのに軽くてよ。…あいつ、メーター振り切れるととんでもねえなあ」


『そうなの、フィーネって一度懐くと忠誠心って言葉がピッタリくるくらい尽くしちゃうのよ。…よほど嬉しかったんだわ』


「ま、あいつに恥じない働きをするさ。おっと、そろそろ”マツリ”だ。行ってくるなー」



*****



中央も年末の浮ついた空気が街を包んでいるが、俺らはビリビリした闘気をなんとか表に出さないように平静を装ってにこやかにしている。


何日か前の夕方、ヴァイスの食堂に胴間声が響いた。


「お前ら聞けぇ!ダイダイ(山吹)の腐飯喰らい共が、中等の有望な娘を双子みてぇな目に遭わせようってぇ企む可能性が出たァ!任務のねぇ奴らは手ェ貸せ!…お前ェら、マツリ大好きだろォ?」



「「「ウオオオォォォォォ!!!!」」」



食堂が揺れてら…



ヴァイスの最高責任者、バルタザール大佐。

バジナ大隊長でさえ彼を無碍にはできない、歴戦の白縹だ。


…とか言っても、普段はただの飲んだくれで俺らはバル爺って呼んでるけどな。さて、ハンナ先生すげーな。どういう経路か知らんけど、バル爺動かしたら勝敗は決まったようなもんだ。作戦はバル爺がおおまかに指示しただろうが、細かいことは大抵エレオノーラ中佐が詰める。これがまた、若ぇ頃は美女だったろうなって感じのクールなバァちゃんで、百戦錬磨で知略に長けてるヴァイスのブレーンだ。ちなみにバル爺の奥さんで、エレオノーラさんって呼ばないとぶっ飛ばされる。この夫婦マジこえぇ。



指令は密かにヴァイス全員に浸透していく。

やることは単純かつ演技力が物を言う。

誰も異議を唱えない。

粛々と全員が動き出す…



*****



とある町の広報部支部の前で、いきなり莫大なマナの収束が起こった。


「…な!なんだ、敵襲!?テロかっ」


支部長が窓から外を見ると、一人の軍人と目が合う。光る宝石の瞳…次の瞬間彼は、全身が粟立ち失禁するほどの殺気を浴びる。軍人はマナを霧散させるとそのまま立ち去った。支部長はなぜか、その軍人の顔も姿も思い出せなかった。


また、他の町の支部では周囲に収束されては消え、消えては収束される大規模魔法の気配と殺気が支部長を苛む。


だが、どの町のどのケースでも、支部長以外はそんな気配をまったく感じなかったという。彼らは周囲に訴えても信じてもらえずノイローゼ気味だ。





中央の広報部本部では、もっと深刻なことが数人の高官に起こっていた。


『禁忌って知ってるか?』


まずはこのメッセージが、白縹関連で収集された情報すべてに透かし文字で入っていた。秘匿処理されたものも、そうでない自動収集されたゴミみたいなものも全て。


ある高官が自宅に戻り、ちょっと人には言えない趣味の部屋に入ると、見慣れない魔石が置いてある。近づいた途端、彼が”楽しんでいる”映像と音声が流れ、画面の中央には透かし文字で『禁忌って知ってるか?』とある。彼がガタガタ震え出した途端、魔石がフッと消えてなくなってしまった。


もう一人の高官は、妻に内緒で作ってしまった借金の借用書の写しが机の引き出しに入っていた。書類には『禁忌って知ってるか?』の透かし文字。驚いてくしゃっと丸め、キョロキョロしながら後で燃やそうと思ってポケットへ忍ばせた。ハァ、なんなんだ…と思って水を飲んで落ち着く。もう一度引き出しを見て必要なものを取ろうとすると、さっきと同じように、違う借用書の写しが入っている。『禁忌って知ってるか?』。ヒッ!と小さく悲鳴をあげてまた捨てる。もう一度、そっと引き出しを見ると…『禁忌って知ってるか?』。高官は恐怖のあまり気絶した。気が付いた彼がどんなに探しても、ポケットにも引き出しにも借用書の写しはどこにもなかった。


また広報部のトップである部長が執務室で秘書たちとこの問題を話し合っていた真っ最中、オーク材でできた机の表面がボコボコ浮き上がり、文字を形成する。『禁忌って知ってるか?』。息もできないほど驚いた全員が読み終わると、すうっと元の机に戻った。


「そんな…気配はなかったぞ…」

「警備は何をやっとるんだ!周囲を探せ、白に決まっとる!」

「くそ…施錠しておけ!誰も入れるな!」


わめく人々が肩をいからせてフゥフゥ言っているさ中に、急に空中から現れたように魔石が出現する。方陣の時限式の仕掛けとかではなく、魔石の現物が目の前に現れ、またしても度胆を抜かれた面々。魔石からはそこにいる全員の急所すべてに寸分違わず光点が映し出され、その体をスクリーンに『禁忌って知ってるか?』の文字がゆっくり移動していく。直後に魔石も光点も文字も消え、あとには真っ青な顔の自分たちしかいない。


部長は何が原因かわからない。というより、心当たりがありすぎて、どれがこの攻撃の原因になっているのか見当がつかない。しかし、自分が何らかの「降参」の意を示さないとこれは続くだろうと理解した。



*****



当初、激怒した部長は軍部へ猛烈に抗議した。

白縹の軍人にひどい嫌がらせを受けている、と。

困惑した軍上層部はヴァイスには秘密裡に調査をする…が、彼らが何かした証拠が一切上がらない。監視方陣もチェックしたし、ヴァイスの所在は全員アリバイまで掴んで証言まで取る。

広報部の、白縹関連のデータにあるという透かし文字もまったく見つからず、マザーにチェックさせても何の痕跡も見つからない。


それでも引き下がらない広報部長を伴い、仕方なしにバジナ大隊長がヴァイスへ出向いた。


「失礼します、バルタザール大佐」


「おお、これはバジナ大隊長。どうしましたかな」


「いえ実は…こちらの広報部長殿がですね、白縹に、その、襲撃を…受けている、とこうおっしゃるんですがね。何かご存じないですかね」


「…それはまた不穏当なことを…我々が何でそちらを攻撃せねばならんので」


「ぐ…っ しらばっくれないでいただきたい!『禁忌って知ってるか』とメッセージを送り付け、散々我らのことを脅して…」


「それは、何の言いがかりだ。わしとて阿呆ではない。ウチが内偵を受けていることくらいは気付いたが、まさかこんなくだらない事だったとは。それで、どういう証拠が出てきたのだ?ウチが何を目的にそんなことをせねばならんのだ?マザーはなんと仰っておるのだ?その禁忌というのは何なのだ?」


「貴様らは飼われている分際で偉そうに…っ 我らにはこの国を情報の力でよりよく導く使命があるのだぞ!協力するのも情報提供するのも当然のこと、白縹だけを対象外とせよと言うのか!」


「…バジナ殿、彼には話が通じんのか?…我らはこれまでこの国の為に戦ってきたと自負しておるのだがのう。すまんがこの御仁は我らをどうしても貶めたいようでな。この言だけで、これから・・・・襲撃に行ってもおかしくないと思うわけじゃが、どう思う」


「…は、おっしゃる通りかと…申し訳ありませんでした。私の方でご説明してお帰りいただきますので」


「よしなに頼む。…広報部長殿、まだ何かあるならわしも肚ァ括るからのう?」


「ぐ…!」



歯噛みし、国のために行う正義がわからぬ輩にイラつきつつ戻ると…机に文字が浮かび出た、というわけだった。



*****



広報部長は、山吹のマザーを介して全部員に通達を出した。


『白縹関連の取材・記事・情報取扱いの許可は、全て広報部長決裁要へと重要度を上げる』


一気に部長の決裁ボックスにたまった決裁書類は、一応目を通してから全て棄却。データは『禁忌』ファイルへ放り込んでいく。



年末まであと数日。いつもなら家族や仲間とパーティでもしていたろうに、と思いながら、部長は全ての処理を終えた。最後のデータを処理し終わった瞬間、執務室の正面の壁に、ボコボコと文字が浮き上がる。



『正解、よくできました!よいお年を!!』



「…くっそ!!!」

広報部長は机の側面を力いっぱいケリ上げて、ヤケ酒を飲んで忘れようと執務室を出て行った。




*****




その日、ヴァイスでは「年の瀬パーティー」と銘打ったどんちゃん騒ぎだった。いたるところで皆が笑い、ハイタッチをし、己の戦果・・を自慢し合う。



「すっげぇウケたぜ、『さっきいたじゃないか!ホラ白縹の!』とか言いながらズボン濡らして喚いてよー」


「いやー、フィーネの魔石な!ありゃスゲェよ。結界敷いてるってわかんねぇくらいうっすいのに、効果抜群。マナだの殺気に指向性つけるなんて思いつかねぇよ」


「もうさぁ、ハイデマリーさんの『幻影ファントム』がスッゴイの!私レア・ユニークの能力初めて近くで味わったぁ~」


「あら、私は皆の幻影を監視方陣に撮影させてあげただけよぉ?」


「ねえエレオノーラさん、あの文字浮き上がらせるのってどうやったの?」


「ああ、あれはねぇ…精度を上げりゃ誰でもできる、属性魔法の応用さ」


「「「できないですよ…」」」


「しっかしウケるのがコンラートだよなァ、魔石配達だっけか?」


「ウケるとか言うんじゃねーよ、大変だったんだぞ!フィーネに気配遮断の魔石融通してもらったのはいいけどよ、一番いいタイミングが来るまで待ちっぱなしさ。んで魔石から手ェ離して上映会。やつらがチビった頃合いまで至近距離で待ってから撤収だもんよぉ」


「なんだよ俺も大変だったんだぜ?カミルが見つけた高官の”結構なご趣味”、五感フルで共有して俺が魔石に映像記憶写したんだからな?吐くかと思ったよなァ?」


「おー、アレはないわー」


「で?それどんな趣味だったん?」


「やめとけ、マジでメシ食えなくなるから。俺だってその魔石配達して、上映会で見ちまったんだからよ…うえぇ…」


「うへー」


「おーう、お前ェら飲んでるかっ よーくやってくれたなァ!」


「おー、バル爺おつかれ!『肚ァ括るからのう』ってドス効いてて最高だったぜ!」


「はん!おめーらヒヨっ子どもたぁ年季が違うってんだよ。アァ?何ビッラなんぞ飲んでやがんだよ?エレオノーラぁ!俺の秘蔵の火酒持ってこいよぉ!」


「うるっさいねジジイ!私は可愛い娘ら侍らしていい気分なんだよ、自分でお行きよ!」


「おーう、わかったァ」


「…バル爺よえぇ~」




体力の化け物ばかりの軍人が酒盛りすると、明け方まで平気で続く。

俺は夜中の2時ごろに抜けて寝たけどな。

…ま、こんな感じで特殊部隊ヴァイスの年末は過ぎてったってワケだ。






  

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