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71 紅の夢 sideニコル




アロイス兄さんと商店から帰ってきたら、あれ?なんかヘンだなって思った。もう外はすっかり暗くなってるのに、家に明かりがついてなかった…ヘルゲ兄さんはどっかに出かけてるのかな?アロイス兄さんはキッチンで「どうしよう、大漁すぎて困る…」ってぶつぶつ言ってるし。部屋にいないか、確認だけしてこよう。




コンコン、とノックしてみる。

返事がないし、明かりもついてなさそう…

ドアをそっと開けてみた。





…なに、これ?




これってヘルゲ兄さんの端末の光?なんか、マナが渦巻いてるような…あ、違う、端末じゃない。…え?え?ヘルゲ兄さんがぼんやり光ってる?



「…ヘルゲ兄さん?寝てるの?」



机の前の椅子でうたた寝してるヘルゲ兄さん。寝ていても顔が整ってるなぁ…いやいや、そうじゃなくて。ほんとに、この光は何だろう?とりあえず揺すってみよっかな。



「ヘルゲ兄さん、起きてー。そんなとこで寝てたら風邪ひいちゃ…!?」



ヘルゲ兄さんの肩に手を触れた瞬間、私は紅い場所にいた。





*****




小さい子が、泣いてる。

2歳…3歳くらい??

どうしたのかな…転んだの?


「…とられた」


え、何を?


「おれがいけないことかんがえたから、とられた」


いけないこと??…いったい誰に取られちゃったの?


「まざーにとられた」


…そっか…大事なもの、取られちゃったの?


「わかんない…おれがかんがえたいけないこと、とられたからもうおぼえてない」


じゃあ、私も一緒に探してあげる。どこから探せばいいかな…


「とられて、けされたから、もうない」


え!消されちゃった?…そっか、悲しかったね…


「もうやだ。おれ、とられたくない。すごくいたい。すごくこわい。でもなんでこわいのかおぼえてない」


…そんなに怖かったの…こっちにおいで、抱っこしてあげるから、もう泣かないで。どこが痛い?


「もうやだ。もうやだ。いたい。こわい。どこにもにげらんない。おれ…おれから…オレから、俺から…もう…なにも、ナニモ、何も…とらないで…取らせない…奪わせない…逃げられない…なら、たたく…なぐる…壊す…ちからがつくまで、かくれなきゃ。かくれて…チカラが、ホシイよ…」


紅い場所がどんどん昏くなっていく…あの子が溶け込むように同じ色になって…消えちゃう。あの子が、消えちゃうっ




****




パッと明かりがついた。目の前にはヘルゲ兄さんと、ドアのとこにアロイス兄さん…そんな…あの子はどこに…


「ヘルゲ?あ、ニコルもいたか。部屋が真っ暗なままで、あぶないよ?…おいヘルゲ!起きろよ、風邪ひくぞ!」


「アロイス兄さん…いま…ちっちゃい子が…」


「え?」


「 ! …じゃなくて!いま、部屋が真っ暗って言った?ヘルゲ兄さんからマナの光が出てたよね?真っ暗じゃなかったよね?」


「…いや、真っ暗だったから誰もいないかと思ったけど…ドアが開いてるから見たら、二人ともいたんだよ?なんかあった?」


「…? 帰ったかアロイス。ああ、ニコルも来たか。…晩メシ、まだか」


「いま怒涛の買い物から帰ったとこだよ!驚かせるなよ、真っ暗闇で変死体みたいな恰好で寝てさあ」


「変死体の恰好など決まっていないだろう」


「そこに食いつかないの!ニコル、悪いけど手伝ってもらっていいかなあ?あの分量はさすがに…傷まないように、下処理できるものは全部やっちゃうからさ」


「…うん、わかった…すぐ行くね」


「…ほんとに、なんかあったのニコル?…さっきマナの光とか言ってたよね」


「ううん、なんでもない。たぶん何かの光が反射してたんだと思う」


「そう?ならいいんだけど」


「…うん、ごめんね変なこと言って。よっし、手伝うよぉ!何からやればいーい?」




本当は、とっても怖い夢を見た後みたいに血の気が引いてた。

でも、私はいまの「夢」を、絶対ヘルゲ兄さんにもアロイス兄さんにも話さないと思う。…怖いからじゃないの、そうじゃなくて。


…あの子が溶けたあの昏い紅の場所に、新しく生まれたはずのヘルゲ兄さん。怖かったのに、誰にも助けてもらえなかったかわいそうな子は…消えちゃったのかな?それともまだ、ヘルゲ兄さんの中にいる?


私は、怖くなかった。ただ、悲しくって。一人で泣いてたあの子がかわいそうで。…どうしてもあの子を泣き止ませたかった。抱っこして、頭を撫でてあげたかった。消された大事なものの痛みを、一緒に感じてあげたかった。


きっとこんなの自己満足だっていうのはわかってる。ヘルゲ兄さんは乗り越えてここにいるんだもの。ヘルゲ兄さんの誇りを傷つけちゃいけないのはわかってる…だから、話さない。アロイス兄さんは隠し事してるって気付くだろうな。でも話さないよ、私。兄さんたちが私を傷つけないために秘密にしてること、私が分かってるって知らせるわけないよ。


あんなに昏い場所にまだ居たら、心から笑えるわけないもの。ヘルゲ兄さんはここまで、心から笑えるようになるまで独りで頑張ったんだから。






…こんなこと考えすぎたら、アロイス兄さんにバレちゃうかな。

ちょっとコンラート兄さんを参考にがんばってみよう。




「はーっ、おなか空いてきたっ!早くパエリア食べたいっ」


「あはは、それじゃムール貝のゴミ取りしてくれる?」


「うっ …あの、びろーんってやつですか」


「じゃあ、ニコルはイカの解体の方がいい?」


「ゴミ取り大好きですっ」


「なんかニコルが変な方向に一皮むけたような気がする」


「イカの解体は、一流シェフの仕事だと思いますっ」


「必死だな、ニコル。そんなにイカの内臓がダメ?」


「違います!ダメなのは目です!」


「おお、その勢いで正直に申告するんだ。斬新な白状の仕方を覚えたねぇ」


「おほめにあずかりこうえいですっ」


「…ニコル、それもしかして…」


「コンラート兄さんが、『兄貴にビミョウなこと言われたら、これで応答すれば間違いない』って言ってた」


「やっぱり。それの出力先はヘルゲじゃないと効かないよ?」


「そうなんだ?…今の聞こえちゃったかな、ヘルゲ兄さん」




そっとダイニングを見たら、ヘルゲ兄さんはすっごく苦い顔をしながらミニヘルに向かってぼそぼそ何か言ってる。



「…99-61(裏)起動 …システムマスター権限行使 次にミニディア宛の通信をする時、極小雷撃とハイキックのコンボを許可」



…コンラート兄さん、ごめんね?

私、使いどころを間違えちゃったみたい…

しかもちょっと黒いナニカをマナに乗せて送ってるのを見ちゃいました。


せっかくヘルゲ兄さんのことがわかった気がしてたのに、残念なものを見た気がします。…よくアルマとユッテが私のことを焦点のあってない目で見てる時がありましたけど、こういう気持ちの時になる現象なんですね…






  

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