70 進化したキラー属性 sideアロイス
「ムール貝がたっくさん!アサリもたっくさん!エビも大盛りっ!お魚売り場のおじさん、すごくオマケしてくれたね!あ、イカも多い!!」
「僕もびっくりだよ…ちょっとしばらくニコルと買い物いけないかも…すごい年上キラー属性だな…」
「えぇ~、私何もしてないよ…でも、やっぱり悪かったかなぁ?つい嬉しくてはしゃいじゃった…」
「だね…ディルクさん、僕と一緒だからすぐにニコルが『突き抜けた』子だってわかったんだろうね。まあ、大丈夫でしょ。後ろにいた奥さんだって、すごい笑顔で持っていきな!って言ってたんだしさ」
「うん、ドーリスおばさんも優しい人だったなぁ~。私、商店で働きたくなってきたよー」
「…あはは、まあどの仕事も大変だけど、ニコルならなんでもできそうだな」
キッチンで買ってきたものを広げながら、さっきの商店でのことを思い返す…いや、ほんとビックリだ。ニコルがあそこまで大人を魅了するとは…
*****
「お、教導師の兄ちゃんじゃねぇか!今日のメシは魚かい?」
「こんにちは、ディルクさん。今日は魚介のパエリアにしようと思って。この子の大好物なんだ」
「んお?…ってこたぁ、嬢ちゃんか?こないだ突き抜けちまったのは?」
「え!?あ…そうです…ご存じなんですね…」
「おお、あんときゃ皆、何年ぶりの事故だよって心配してなぁ。いやあ、無事で良かったな!オマケしてやるからいっぱい食べな!」
「…アンタ、何をわざわざ嫌なこと思い出させてんだい。ごめんねぇ、怖かったろう?名前はなんて言うんだい?」
「あ、ニコルです!あの、すみませんご心配をおかけして…でもこの通り、元気いっぱいです!気遣ってくれて、ありがとうございます!」
「あはは!そうかい、なら良かったよ。アタシはドーリスだよ、またおいでね。ほらアンタ!お詫びにもっと入れたげてよ!」
「あいよ!ほれ兄ちゃん、持ってけ!」
「えっディルクさん、この値段は安すぎ…」
「いいってんだよ、お前さん料理うまいんだろ?たんと食わせてやれや!」
「あはは…すみません、じゃあ遠慮なく…ありがとうございます」
「…うわぁぁぁぁ、すっごいっ!エビ、まだ生きてる!ほわぁ、おいしそぉ…」
「がっはは、素直な嬢ちゃんだ。また来いよ!」
「はい!ありがとうディルクさん、ドーリスさん!」
ニコルが涎を垂らしそうな顔で袋を覗いてお礼を言うと、隣の八百屋からマルコの笑い声が聞こえてきた。
「わっはは!けっこうな食いしん坊っぷりだな、ニコル。アロ兄、こっちにも寄ってってよ。パプリカのいいのが入ってるんだ」
「あれ、マルコ兄さんだ!」
「おう、学舎の食堂には配達に行くが、なかなか顔は見られねぇからなあ。無事で良かったな」
「やあ、マルコ。じゃあパプリカと…玉ねぎ。あ、レモンも二つ頼むよ」
「ほいよ!ブロッコリーもオマケで入れとくよ、パエリアに合うから。アロ兄も大変だったもんなー」
ニヤニヤ笑ってるな…ってことは、僕が泣いたってのも聞いてるんだなマルコは。
「…そうなんだよ、大変だったから労ってくれるよね、マルコ?」ニッコリ。
「うお…了解ぃ~、オレ秘蔵の極上オリーブオイル入れとく~…」
「ありがとうマルコ、悪いね」
「いえいえ…」
*****
商店という呼び名だけど市場みたいな規模だから、ちょっと歩くたびに声をかけられて「これ持ってけ!」と何かしら貰ってしまう。
さすがに申し訳なくなって、逃げるように商店を出てきた。
いやあ…ニコル、もってもて。
突き抜けた子っていうんで同情されてるのが多分にあるのは分かるんだけどさ、男女問わず半分以上ニコルの笑顔とか素直さにやられてると思うんだよね…
…
うああ、あれか、門番再びってことか。今度は女の子の津波じゃなくて、男の津波を捌くのか、僕は?…いや、男だったら遠慮なくブン投げれば済むのか。楽かもしれない。
ん?僕いま、ヘルゲみたいな思考しなかった?
まあ、いいか…今日は考えることが多すぎて、ちょっとおかしくなってるだけだろうな。料理してリセットしよう…
つか、この分量。
パエリア、3人分が3回は作れそうなんだけど。
明日も豪勢な食事になりそうだなぁ…