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68 宝玉級 sideアロイス


ガタッ



顔色を悪くして立ち上がった僕を、他の先生が怪訝そうに見る。



「…どうしたんだアロイス?大丈夫か?」


「いえ…すみません大丈夫です。ちょっとここをお願いしていいですか?すぐ戻ります」


「ああ、いいけど…」



説明もそこそこに、笑顔だけなんとか作ってから品質検査場の裏手へ早足に出る。バカな。そんな、バカな。あの接触が原因?何も品質検査でいきなり判明しなくてもいいじゃないか…!



屈折率・反射率・硬度…宝玉級、A判定。透明度 C判定。総合到達度 B判定。



ニコルの検査結果をもう一度見直す。



『宝玉級』



嘘だろ…ついこの前の学舎での測定結果は、以前と同じ『宝石級』だった。このままいけばグリーンガーネットか、グリーントルマリンあたりの到達認定ならいけるんじゃないかと思ってたんだ。いきなり宝玉級?


本人には告知されない職員用のデータの方を見ると、特に「反射率」が前回より飛躍的にあがってる…そりゃこの数値なら宝玉級だ…本当に緑玉でもおかしくない。



これは…マズい。


ミニロイをマザーの近くで使いたくないけど、仕方ない。僕に展開できるささやかな隠蔽をかけて、ヘルゲに繋いだ。



『どうした』


「…ニコルの瞳が、宝石級から宝玉級にハネ上がった。反射率がガツンとあがってる…品質検査じゃ、ごまかしようがないよね?」


『…ちょっと待ってろ』



いくらヘルゲでもできないことはある。品質検査の結果は、定時を待たずに本体と同期してしまう。宝玉級の情報なんて、いの一番にピックアップされてしまう…



『アロイス』


「どうだ?」


『無理だった。すでに本体のロジックで拾い上げて、関係各所へデータ配信済だ。不特定多数の閲覧では、今から改ざんしても意味がない。すまん』


「…そうか…いや、ヘルゲが謝ることじゃないよ。僕こそごめん、冷静じゃなかった。そうなると、ニコルは…」


『…軍部の配属予定者、だろうな』


「…だよね。大規模魔法が撃てなくても、それは変わらないのかな?」


『俺の予測では、十中八九変わらない。今のままのマザーなら“改造して収束ができるようにすればいい”と考えてもおかしくない』


「わかった。僕ももう戻らないと…帰ってから話そう」


『おう』




ぷつん、と通信を切って頭を振る。


冷静になれ、アロイス。

何事も予定通りになんて、いかない。

とりあえず戻って、普段通りに振る舞わないと…

さっきの慌てようをごまかして、データチェックを進めて、学舎へ戻って仕事して、ニコルと家へ帰る。ぐるぐる考えるのは、その後だ。


僕はまだ少し重い足取りで、検査場の中へ戻った。




*****



「アロイス兄さん、これから商店行くんだよね?一緒に行っていい?」


「ああ、もちろん。ニコルの考えなんてわかってるよ、パエリアにどうやって大好物の魚介類をたくさん入れてもらおうかって思ってるんだろ?」


「にへへ…バレた…」


「心配しなくても、大盛りに決まってるじゃないか。…すごい検査結果だったもんね?」


「ん?あ、学科はがんばったよぉ~!リア先生が付き合ってくれてね、歴史の暗記なんて、一回で頭に入っちゃった。覚えやすくなるエピソードとかをたくさん話してくれるんだ~」


「…? ニコル、到達度判定見た?」


「見たよ?透明度はCで、今までと変わらないよ?」


「総合判定はBに上がってるの、見た?」


「あれ、そうだったっけ?…ビットがあるから変わり映えしないし、ちゃんと見なかったかも…」


「あぁ、なるほどね。…まったくもう、トボケてて可愛い妹だねぇ」



気付いていなかったニコルに、愛しさ半分・憐憫が半分の複雑な気持ちで頭をぽんぽんと叩く。


この子が、進路で傷付く日が近づいてる。

…間に合ってくれ。


もし軍部配置予定になったとしても、ニコルの気持ちは僕がカバーするから。

マザーが最悪の提案を中枢へ出す前に。

改造なんて思いつく前に。


間に合ってくれ。







  

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